藤本誠生建築設計事務所が監理・設計する建築が福岡県福岡市で完成した。施工はフィルハウスデザイン(株式会社イーコムハウジング)が担当した。建築面積の大きさからは想像もつかない広がり感のある住まいができあがった。施主と建築家の相互の理解から生み出された住宅は、敷地に対して素直でシンプルなものだった。
[ 監理・設計:藤本誠生建築設計事務所 藤本誠生 施工:フルハウスデザイン 所在地:福岡県福岡市 ]
- 敷地面積:132.28m2 (40.01 坪)
- 延床面積:86.38m2 (26.12 坪)
- 耐震等級3 | C値:0.14cm2 / m2 | Ua値:0.33w / m2・K
デザインとは問題解決なのだと思う【前編】
Feature|Jan.2025「つながり」をデザインする家
住宅設計において「つながり」をテーマに取り組む藤本誠生建築設計事務所。その設計思想を象徴するこの住宅は、延床面積26坪という限られた空間ながら、広がりを感じさせる空間構成を実現。藤本氏の手がける家は単なる居住空間ではなく、家族が日常を共有し、空間そのものが「つながる」ことを目指している。
階段を中心としたつながりのある空間
この住宅の特徴は、階段を中心にすべての空間がつながるように設計されている。階段と吹き抜けを巧みに組み合わせることで、視覚的にも物理的にも空間の一体感が生まれた。特にリビング上部の吹き抜けは、リビングやダイニング、さらには子ども部屋、玄関、中庭に至るまで、全方位に開放性を提供している。
階段を起点にしたこの設計は、家族がそれぞれの時間を過ごしながらも、お互いの存在を感じられる空間を生み出している。また、動線の工夫により、自然と家族が集う場所が作られるよう配慮されているのも藤本流。
デッドスペースをゼロにする動線計画
1階にはリビングを中心に、キッチンや水回り、スタディコーナーが配置されている。この住宅では廊下という概念がほぼ排除されており、デッドスペースが生じないよう計画されている。
例えば、リビング裏のスタディコーナーや水回り動線の裏側に配置されたクローゼットやランドリースペースは、通路そのものに機能を持たせた例だ。これにより、延床面積以上の広がりと生活動線の実用性が上がる。このような回遊性の高い動線設計は、日常生活をよりスムーズかつ効率的にするだけでなく、家族間のコミュニケーションの促進にも寄与する。
外と内を結ぶ回遊性
玄関からリビング、中庭に至るまでの動線は、室内と屋外の境界を曖昧にする役割を果たします。中庭を中心に、家全体がひとつのまとまりを持つようデザインされており、外部空間を気軽に利用できる生活環境が整っている。つながりを象徴するようにリビングからは中庭に向かって1階から2階まで全開放の窓を配置されている。大きな窓は中庭とのつながりはもとより、中庭の上に広がる空まで見渡せる開放性を作り出している。
この設計により、外と内がつながり、空間の広がりをさらに感じることができる。家族が日常的に外部空間を利用できるようになることで、自然との接点が増え、暮らしに豊かさが加わった。
柔らかさと強さを両立する外観デザイン
外観には、付加断熱式塗り壁工法が採用された。塗り壁特有の柔らかな質感を持ちながら、断熱性能も兼ね備えたこの工法は、快適性と住宅性能の両立を可能にします。
ファサードは安定感のある末広がりのデザインで、視覚的な安心感を与えつつ、シンプルでありながら洗練された美しさを持っている。グレーの塗り壁の色の中に、梁と屋根の破風の木の表しがデザインのアクセントとなった。正面のシンボルツリーと中庭に植えられた植栽がシンプルなデザインの母屋に季節感を与えてくれる。この設計は、地域環境に溶け込むと同時に、独自の存在感を放つ仕上がりとなった。
デザインとは問題解決である
藤本氏は「デザイン」を単なる美的要素の追求とせず、「問題解決」として捉えている。敷地条件や家族構成、地域の文化や気候など、多くの要素に対して最適な解を見つけ出すことが、藤本氏の設計思想だ。
この家では、限られた敷地と延床面積という条件を超え、家族が快適に暮らし、地域と共存できる空間を作り上げる。その中で生まれるデザインには、藤本氏の「優しさ」が宿っているようだ。この優しさは、見た目の柔らかさだけでなく、家族が日々の生活を送る中で、心地よさとして感じられるものとなった。
家族と地域をつなぐ住まい
藤本誠生建築設計事務所の住宅は、単なる居住空間ではなく、家族と地域、内と外、そして人と人をつなぐ場として機能する。この住宅は、住まいがもたらす「つながり」の価値を最大限に引き出す設計が施された。
家を建てるということは、ただ物理的な空間を作るだけではないと藤本氏は言う。そこには家族の物語が刻まれ、未来へと引き継がれる「責任」が宿ります。この家は、その責任を形にした住まいといえるでしょう。
藤本氏の設計がもたらすのは、空間の美しさだけではない。そこに住む人々が自分らしく暮らし、地域と調和しながら生活する未来の住まいの姿です。この住宅は、私たちに「住まいとは何か」という問いへの新たな視点を与えてくる。
「デザインとは問題解決なのだと思う 後編」は2月1日更新予定
ナビゲーター
君島貴史(きみじま・たかし)/1975年東京生まれ。君島and株式会社 代表取締役。横浜を中心に150棟以上の建築家との住まいづくりに携わる。デザインと性能を両立した住宅を提案し続けています。「愉しくなければ家じゃない」をモットーに、住宅ディレクターとWebマガジン「andarchi」の編集を行っています。