河合工務店 一宮モデルハウス [ 設計:椙設計室 一級建築士事務所 稲沢 謙吾 施工:河合工務店 所在地:愛知県一宮 ]

素材の質感を活かす設計施工 【後編】

Perspective 建築家 稲沢 謙吾×河合工務店 河合 昭知 Feature|Oct.2024

建築家 稲沢謙吾 写真建築家 稲沢謙吾 写真
稲沢 謙吾(いなざわ・けんご)/1969年 石川県生まれ。1989年 東京都立品川高等技術専門校 建築設計科 卒業。 1989年-2000年 株式会社古平真建築研究所。2001年 椙設計室 一級建築士事務所 設立。建築家の責務を果たすべく全ての仕事に全力を尽くすこと。建主さんには生活をしていくプロとして全力で設計に参加して欲しい。
河合工務店 河合昭知 写真河合工務店 河合昭知 写真
河合 昭知(かわい・あきのり)/1970年 河合工務店創業。現場で良いものをつくり、満足してもらえるものを提供し続けたい。その仕事の姿勢で、会社の規模が大きくなっても現場管理の仕事をやり続けている。材料を一つ一つ吟味して、職人とともに現場を奔走するのが、社長としての主業務。良いものができる理由を知ってもらいから、現場レポートをブログとしてほぼ毎日配信中。

河合工務店の新しいモデルハウスが愛知県一宮市に竣工した。設計者は、東京で椙(すぎ)設計室を主催する稲沢謙吾氏。河合工務店の施工力だからこそ挑戦できる設計を目指した。河合社長と建築家稲沢氏の答えは、木の本来持つ質感をそのまま生かした設計計画。難しい「設計」「施工」に敢えて挑むモデルハウス建築となった。

仕上げ材としてのラワン合板

ラワン合板に使用されているラワン材は、天然の繊維素が均一に含まれ、板状に加工しやすいという特性を持っています。そのため、ラワン合板は柔軟性がありながらも強度が高く、加工しやすいという特徴があります。また、丈夫で耐久性がありながらも比較的軽量なので、扱いやすい素材として知られています。
さらに、ラワン合板は価格が比較的リーズナブルであり、その堅牢さと軽さから、建築現場での足場や型枠、家具の製作など様々な場面で使用されています。一見、荒々しい素材の使い方に思えるが、実際に施工してみると自然素材の柔らかい風合いが表現できる素材だとわかります。

大黒壁という発想

「大黒柱」という言葉は建築用語として一般的だが、今回のプロジェクトにおいて稲沢氏が名付けた建築のポイントは「大黒壁」。1階の土間スペースから2階のLDKまで貫くラワン合板の壁が、建築の中心に据えられている。耐震強度を高くする機能性と意匠的な剛性感が「大黒壁」としての安心感をつくりだしていた。まるで大木に寄り添うような感覚が住まいの中で感じられる不思議な体験だった。ラワン合板の質感と勾配天井の現し仕上げで、木の感じが程よく森林の中にいるような感覚となる。稲沢氏は、様々な質感の木の表情が、様々な種類の木が生える雑木林のような空間になれば良いと言っていた。設計の意図がそのまま体感できるモデルハウスとなっている。
大黒壁の1階と2階には程よい開口部が開けられている。階段をアクセントとして見せる1階の切り取り方や吹き抜け側に開けられたヌック的な開口部。それぞれの開口部が目的に合わせて設計されている。南側の大きな窓に対して程よくプライバシーを確保するように設計された大黒壁は、様々な機能を果たすことで名実ともに暮らしのシンボル的なものとなっている。

光の反射を愉しむ

四季折々の光の表情を感じることのできる空間設計。自然素材(ラワンや天井の梁、床材)の仕上げ材が柔らかく光を反射し、空間の質感を上げてくれる。ダウンライトを極力廃した照明計画と自然光の入り方を計算した窓の配置が空間を雰囲気良く演出している。「大黒壁」にはヌック的な開口部が設計されている。ダイニングキッチンと吹き抜けの間を緩やかに仕切る機能やプライバシーを程よく確保しながら光や景観を楽しむことができる機能も備えている。住まい手は、暮らしの想像力を自然と掻き立てられる。居場所を固定化されず、暮らしを愉しむバリエーションが多い設計となっていると思う。忙しい現代社会だからこそ、ゆっくりとした時間を愉しむ空間設計が求められているのだろう。

素材の質感を大切にする

稲沢氏は素材から受ける印象を設計の段階から大切にする。「大黒壁」のラワン合板や天井の構造現しの木の質感、玄関土間のコンクリートの質感や鉄骨手摺のアイアンの質感など素材が本来持つ質感の組み合わせのバランスを計算しながら空間設計を組み立てていく。素材同士が過度に主張すること無く、調和するように素材選びや色の組み合わせを考えている。住宅設計は、このような一つ一つの細かなディティールの組み合わせをしていくことで全体の構成が決まっていくのかもしれない。完成後に家具や照明器具などが、どのように加わるかを想定しながら設計計画を進めていくことも大切な要素となる。

暮らしをイメージした設計

住まい手のモノ選びの好みや暮らし方のイメージを汲み取りながら計画することも建築家の大切な仕事。住まい手がどのような時間を過ごしたいのかを様々な角度からヒアリングを行い、答えを導き出す。当たり前の話だが、建築に併せて住まい手が住むのでは無く、住まい手の将来の住み方の可能性を引き出し、新しい暮らしの創造をしていくことが建築家に求められる能力なのだろう。建築家との会話の中から住まい手は潜在ニーズを引き出され新しい「自分」を発見することもよくあることだ。建築家との住まいづくりのプロセスで既成概念に囚われず、様々な角度から将来の住まいのイメージをしてみると注文住宅がもっと愉しくなるのだろうと思う。

ディティールを守る施工

河合工務店は施工力が高い。河合社長自ら現場の管理に携わり建築家の設計ディティールを深く検討し施工する。設計の意図を正確に汲み取る能力が現場管理には求められる。今回のプロジェクトの特徴でもあるラワン合板は、色や模様が一枚ごとに異なる。その一枚ごとの表情を見極め貼っていく。天井の構造も、そのまま仕上げ材として見えてくるため施工は繊細な気遣いが求められてくる。素材をシンプルに、そして美しく施工することは住まい手にとっては分かりづらい技術。しかし、建築のプロである建築家は、河合工務店の施工力の高さを信頼して素材の質感を活かした設計をしていく。

施主力を上げて家づくりをしよう

建築家の稲沢氏は、とても穏やかで優しい人柄。住まい手の意見に深く耳を傾けて、良い設計を組み立てていく。住まい手の意見に深く耳を傾ける理由の一つに「施主力を上げてもらいたい」という目的があると言っていた。私自身、今回の取材を通じて、最も印象的だった言葉であったかもしれない。現代では、注文住宅の情報を得る方法は主にインターネットだと思う。その多くがインスタグラムなど、SNSからの情報だと思われる。多くの情報に接する機会が増えているという言い方もできるが、一方、好みの写真や情報が検索システムで集められており画一的なイメージが住まい手の中につくられていってしまっているという弊害もあると言っていた。いつの間にかつくられてしまったかもしれない既成概念を深くヒアリングすることで本当の要望を見つけ出す。稲沢氏は流行りに囚われない、本当の住まい手の暮らしに耳を傾けている。

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ナビゲーター
君島貴史(きみじま・たかし)/1975年東京生まれ。君島and株式会社 代表取締役。横浜を中心に150棟以上の建築家との住まいづくりに携わる。デザインと性能を両立した住宅を提案し続けています。「愉しくなければ家じゃない」をモットーに、住宅ディレクターとWebマガジン「andarchi」の編集を行っています。

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