建築家三原宏文氏設計 MORIKEN HAUS「層の家」 建築家三原宏文氏設計 MORIKEN HAUS「層の家」

MORIKEN HAUS「層の家」 [ 設計:DRITTO 三原 宏文 施工:MORIKEN HAUS 所在地:滋賀県大津市 ]

美しい家と暮らそう
~層の家プロジェクト 後編~

Perspective 建築家 三原 宏文×MORIKEN HAUS 森田 健司 Feature|Jan.2024

美しい器に住むことで、暮らしの時間が豊かになるのだと思う。住まいの器が美しいと自然に暮らし方も美しくなるような気がする。今までにない物の見方や感性が生まれてくると、楽しい暮らしのバリエーションが増えてくるものだ。ちょっとした暮らしのシーンだからこだわって過ごしたいと思う。

建築家三原宏文 写真建築家三原宏文 写真
三原 宏文(みはら・ひろふみ)/1974年福岡県生まれ。武蔵工業大学建築学科卒業、ハウスメーカー・地元住宅会社にて住宅・ランドスケープの設計・デザインに従事。2012年株式会社FANFAREに参画し、住宅設計を中心に商業系・医療福祉系建築設計、商品開発に携わる。2022年DRITTO設立。 [設計ポリシー]その場所でしか実現できない空間とはなにか? 土地の持つ魅力、環境(光・風・音・香り…)や歴史などの場所性を意識し、それらを活かし重視することを常に模索しながら設計に臨んでいます。ヒトとヒト、モノとモノ、ヒトとモノの程よい距離感を探りその余白を楽しむ。「心地いい」空間を目差しています。
MORIKENHAUS森田健司 写真MORIKENHAUS森田健司 写真
森田 健司(もりた・けんじ)/1974年滋賀県大津市生まれ。大阪にてハウスメーカーの営業をしながら建築を学び、2000年に地元大津市で株式会社モリケンハウスを設立。20年以上の工務店経験を活かし、デザイン性の高い高性能住宅を手掛けている。『三方よしの住まいづくり』を経営理念に住まいづくりに関わる全ての方々が幸せになるよう日々創意工夫している。

環境と建築の共生

前編でも述べたが、三原氏は敷地の一番奥にある緑に注目した。神社の御神木にもなりそうなほど大きな木が立っている。この木に寄り添うように建物を建てるイメージから配置計画を考えた。三原氏には、当初から建物の背景としての森が見えていた。建物のデザインをシンプルにすることで、森の緑との相性が良くなる。建物の屋根勾配に合わせて森も連動するように傾斜している。周囲の環境と一体化した建築ファサードは、とても美しく見える。

「層の家」は、昼の表情と夜の表情とそれぞれの魅力がある。昼は、青い空と木々の緑、そして建築の白い外壁のバランスが良く、お互いの魅力を引き出し合っているかのようだ。夜は、木々の影を背に建物が神秘的に浮かび上がってくる。外壁が白いキャンバスとなり、シンボルツリーのアオダモを美しくライトアップしている。

内部の表情も昼と夜とでは一変する。昼は外の景色の抜け感が気持ちの良い解放感を感じ、夜は間接照明を主体とした照明計画が、室内空間の立体感を感じさせてくれる。一日を通して光の感じ方が変化し、様々な建築の表情を見せてくれる設計となった。

ウチとソトがつながる動線設計

庭側から見た外観も極めてシンプルなデザインになっている。敷地の内側へ屋根勾配を下げることにより、雨樋をつけないデザイン設計となっている。細かなことだが、このようなディティールの検討がよりシンプルで美しい外観を実現させている。周囲の環境に溶け込むデザインは、いつの時代も飽きのこないファサードとなった。

「層の家」は、山の稜線を望む景観の良い立地となっている。その景観を暮らしの中に取り込み、敷地内のガーデン計画も周囲の環境に馴染むような設計となった。外部の土間空間と内部のリビング空間がシームレスにつながり、居住空間の開放性を作り出している。リビング内から外を見るとどこまでもリビング空間が続いているかのような錯覚を覚えるほどだ。天気の良い日には、椅子を外に出してゆったりとした時間を過ごしたいと思わせてくれる空間となった。

リビング全体を勾配天井とし、開放性を感じられる設計となっている。リビング階段を通じて緩やかに二階とつながり立体感のある空間ともなっている。夜は間接照明で天井が照らされ、幻想的な空間でゆったりとした時間を過ごすことができる。

キッチンやパントリー、水回りに至る導線は回遊導線で効率性を高めている。収納などのバックヤードはキッチンの裏側に計画し、収納量と使い勝手を両立した間取りとなっている。老後の終の棲家としても想定されており、一階で生活の全てが完結するよう設計された。

性能のある美しさ

どんなに間取りとデザインが良くても、夏は暑く冬は寒い家では楽しくないと考えている。楽しい空間にするためには、常に家中が快適な温度環境であることが前提条件となる。性能と間取りはとても深い関係性にある。可変性の高い大空間な間取りは住宅性能なしには成り立たない。吹き抜けやリビング階段なども住宅性能を高いレベルで確保することで実現する設計計画となっている。これにより廊下や階段スペースをデッドスペースにしない住宅設計となり、居住空間を最大化し家族みんなが集まる楽しい空間が実現する。

「層の家」は、HEAT20 G2グレードをはるかに凌ぐUa値0.33 W/m2・Kの超高性能住宅になっている。断熱性能と共に気密性能C値も0.14 cm2/m2で施工されている。断熱性能と気密性能の極めて高い空間は、大空間のリビング空間でも省エネで快適な生活を保証してくれる。

コストパフォーマンス設計

MORIKENHAUSの森田氏は「住まいづくりは、コストコントロールすることも大切なこと」だと言う。どんなに理想的な住宅設計でも予算オーバーでは意味がない。コスト内に設計することが、設計事務所の腕の見せ所。余計なデザインをすることなくシンプルに設計をすることが、デザイン性を保ったままコストコントロールする秘訣となる。

建築コストを抑えるためには、屋根と基礎と外壁の面積を効率よくつくることから始まる。基本的には、ボックス形状の二階建てとすることが効率的な面積で設計できると考えている。屋根や外壁の面積を最小限とすることで、熱欠損する面積も小さくなるため性能が良くなり、電気代などのランニングコストも下げることにつながる。更には、廊下などのデッドスペースを最小限にすることで、建物面積を余計に大きくすることなくコストコントロールしていく。

建築の魅力を上げながらコストコントロールを両立することをMORIKENHAUSは実践し、付加価値の高い住まいを提供し続けている。

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ナビゲーター
君島貴史(きみじま・たかし)/1975年東京生まれ。君島and株式会社 代表取締役。横浜を中心に150棟以上の建築家との住まいづくりに携わる。デザインと性能を両立した住宅を提案し続けています。「愉しくなければ家じゃない」をモットーに、住宅ディレクターとWebマガジン「andarchi」の編集を行っています。

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