建築家三原宏文氏設計 MORIKEN HAUS「層の家」 建築家三原宏文氏設計 MORIKEN HAUS「層の家」

MORIKEN HAUS「層の家」 [ 設計:DRITTO 三原 宏文 施工:MORIKEN HAUS 所在地:滋賀県大津市 ]

美しい家をつくろう
~層の家プロジェクト 前編~

Perspective 建築家 三原 宏文×MORIKEN HAUS 森田 健司 Feature|Dec.2023

美しいという要素は、住宅にとって大切な性能の一つだと思う。人はモノを大切にする時、いつまでも飽きのこないデザインと住んでいて楽しいという品質を求めるのだと思う。建築物のみならず、名車と呼ばれるものや美術品に至るまで様々なものがデザインと共に残されてきた。美しいものは残すに値するものなのだから。

建築家三原宏文 写真建築家三原宏文 写真
三原 宏文(みはら・ひろふみ)/1974年福岡県生まれ。武蔵工業大学建築学科卒業、ハウスメーカー・地元住宅会社にて住宅・ランドスケープの設計・デザインに従事。2012年株式会社FANFAREに参画し、住宅設計を中心に商業系・医療福祉系建築設計、商品開発に携わる。2022年DRITTO設立。 [設計ポリシー]その場所でしか実現できない空間とはなにか? 土地の持つ魅力、環境(光・風・音・香り…)や歴史などの場所性を意識し、それらを活かし重視することを常に模索しながら設計に臨んでいます。ヒトとヒト、モノとモノ、ヒトとモノの程よい距離感を探りその余白を楽しむ。「心地いい」空間を目差しています。
MORIKENHAUS森田健司 写真MORIKENHAUS森田健司 写真
森田 健司(もりた・けんじ)/1974年滋賀県大津市生まれ。大阪にてハウスメーカーの営業をしながら建築を学び、2000年に地元大津市で株式会社モリケンハウスを設立。20年以上の工務店経験を活かし、デザイン性の高い高性能住宅を手掛けている。『三方よしの住まいづくり』を経営理念に住まいづくりに関わる全ての方々が幸せになるよう日々創意工夫している。

配置を考える

大津市の小高い山の見晴らしの良い敷地が、今回の計画地となった。敷地面積は257坪の大きさがあった。一部は既に駐車場として活用されており、敷地の約3分の1程度が斜面となっている。この敷地に対して、どれくらいの大きさの建物をどの位置に配置するかから紐解いていく。見晴らしの良さを活かすこと、崖に対して安全性を確保すること、プライバシーの確保の仕方やアウトドアリビングとの関係性など、様々な要素を考慮し最適な配置計画を練っていく。

三原氏は、実際に現地に身を置き様々な情報を確認する。敷地の形状や大きさ、周囲の景観や方角、そして光の動き方や周囲から聞こえる音の種類など、多くの情報をインプットし検討していく。

楽しいプロセスから生まれる

敷地のパフォーマンスを読み解いた上で、住まい手の暮らし方についてヒアリングしていく。住まい手によって暮らし方に対する価値観は様々。大切にしている生活習慣、家族のライフステージの変化に対する確認、これから実現したい新しい暮らしのあり方など、様々な角度から話し合っていく。

三原氏の専門家としての経験と知識は、住まい手が気づきもしなかった価値観を引き出していく。これまでの生活の中にあった固定概念や既成概念といったものを突破し、想像を超える住まいづくりへと導いていく。

住まい手の好みを知ることはとても大切なこと。多くの写真を見ながら感性の共有をしたり、様々な建築材料を手にとって素材感や色の好みなどを確認していく。迷ったときは専門家である建築家の意見を尊重した方が良さそうだ。

打ち合わせで一番大切な情報は、どんな住宅をつくりたいかではなく、どんな暮らしがしたいかだ。こんな暮らしがしたいとか、こんな時間を楽しみたいと伝えてくれれば建築家は最適な回答を考えてくれるはず。住まいづくりのプロセスを楽しめれば、きっと楽しい暮らしが手に入ります。

環境から導き出す

三原氏は、敷地の一番奥にある緑に注目した。神社の御神木にもなりそうなほど大きな木が立っていた。この大きな木に寄り添った建物をイメージしている。建物の背景として森が見えてくる。建物のデザインをシンプルにすることで、森の緑との相性が良くなる。建物の屋根勾配に合わせて森も連動するように傾斜している。周囲の環境と一体化した建築ファサードは、とても美しく見える。

玄関ポーチは、トンネルのような形状になっている。そのトンネルを抜けると奥の森へと続いていく。通り土間を介して、建物と森との関係性も作り出していく。

三原氏のちょっとした演出が、この土地に建てるという意味を実感させてくれる。

大きな木に寄り添って建物を建てることは、美しさを作り出すこと以外にも意味がある。高台に位置する今回の敷地は、風通しが良い反面、台風などの強い風の影響も受ける。そんな時、隣接する大きな木は防風林としての役目も果たしてくれると期待している。

三原氏は周囲の環境からインスピレーションを得て、素直に設計を解いていく。いつの時代も変わらない不変的な設計デザインとなった。

層の家という意味

今回のプロジェクトのキーワードとなっている「層の家」。層とは、いわゆる地層とか重なりということから導き出されている。高台という地層の上に立てるということや建物と森を重ねてデザインする。更には、庭のレベルとリビングのレベル、階段を上がったロフト的な2階のレベル(層)へと立体的に構成されている。

それぞれのレベルから見える風景がとても楽しい。リビングから玄関土間、そしてアウトドアリビングの土間へと棚田のように連なっていく層が面白い。アウトドアリビングの土間にも土地の傾斜なりに段差を設け、立体感を創出し、様々なアウトドアリビングシーンを楽しめるよう設計された。

外の空間が、まるでリビング続きになるように演出され、実際の大きさ以上の広さを感じる空間にもなっている。設計図面の段階で、工事者ともしっかりと意味を共有し作り上げていくことが必須となるプロジェクトだった。

層の家プロジェクト 後編「美しい家と暮らそう」をみる

ナビゲーター
君島貴史(きみじま・たかし)/1975年東京生まれ。君島and株式会社 代表取締役。横浜を中心に150棟以上の建築家との住まいづくりに携わる。デザインと性能を両立した住宅を提案し続けています。「愉しくなければ家じゃない」をモットーに、住宅ディレクターとWebマガジン「andarchi」の編集を行っています。

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