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君島貴史(きみじま・たかし)/1975年東京生まれ。横浜を中心に150棟以上の建築家との住まいづくりに携わる。デザインと性能を両立した住宅を提案し続けています。「愉しくなければ家じゃない」をモットーに、住宅ディレクターとWebマガジン「andarchi」の編集を行っています。
「家づくりは最高に面白い!」
そんな想いを伝えたいとスタートした家づくりの奥深さ、
楽しさを知る者たちによるクロスオーバートーク。
既成概念を突破するという視点が空間の可能性を広げていく。
第3回は、土地を深く読み解き、建物のあるべき姿を追求する。
土地に対する座り方(配置)から考察する
Feature|Jan.2022土地の性格を深く読み取ることから始まる
君島建築家の最初の仕事とも言える土地の読み解き方ですが、藤本さんは今回のモデルハウス用地をどのように読み解きましたか?
藤本今回のモデルハウスの敷地は、用途地域が準工業地域という場所でありました。準工業地域は、一般的に住宅地として使用される第一種住居専用地域とは異なり、住宅以外の目的の建物も建築できる地域でした。そのような地域で住宅を計画しようと思ったとき、周囲の環境がどのように変化するかを普段以上に考慮しなくてはなりません。
現在、南側の隣地には2階建ての住宅が建っていますが、将来的に3階建て以上の建物が建つ可能性もある敷地です。将来的な可変性を考慮すると少なくとも南側からの採光にだけ頼った計画はできません。更には、前面道路は大型車両が日常的に通行する大きな道路に面しているということでした。しかも、唯一安定した光を取り込める道路の方角が西であるという建築条件的には簡単ではない敷地でありました。
君島小泉さん的には、この土地をモデルハウスの計画地として決めた理由は何でしたか?
小泉一番の理由は、通行量の多い道路の面しているということでした。モデルハウスとしては、それなりの露出度が望めるのではないかと考えました。 しかし、そのような特性のある敷地は、住宅を建てるには大きなハードルが存在することも認識していました。いくら、モデルハウスであるからと言って住宅機能を無視した建物は建築できません。難しい選択を迫られたことは確かです。
君島小泉さんが気にされた住宅機能とは何ですか?
小泉大型車両も通行する道に面しているため、騒音の問題やプライバシーの確保の仕方、そして西向きの敷地であったため温熱環境を担保しながら明るい室内環境をつくり出せるかなどです。何といってもプライバシーを阻害されてしまっては、楽しい暮らしを提供することはできません。ただ、ハードルが高ければ高いほど建築家という職業の方はモチベーションが上がると思っていましたけどね(笑)
藤本確かに、モデルハウスの敷地の情報を知った時には燃えました(笑)
君島土地の特性を読み解いた後に設計に取り掛かると思いますが、設計をする上でどのようなことから考えていくのですか?
藤本やはり、その土地に対する座り方(配置)ですね。
敷地の条件に対して、様々な配置の可能性を考えていきます。物件によっては20パターンほど考えることもあります。モデルハウスについては、今回敷地の特性から、南側は将来の可変性を考えると窓を大きく配置してもメリットは無くなるかもしれないと考え、大きく窓を取る方向を西の方角となる道路側と考えました。道路側の面に大きな窓を配置するということは、すなわち道路に対するプライバシーの問題と温熱環境を悪くする西日の問題との対峙となります。
まず、プライバシーの問題に対しては、道路からなるべく離れて建物を配置することを考えました。道路から約6メートル程度離すことによって通行人との距離を取ろうと考えました。さらに、西日の問題と対峙するため軒を深くし、西日の進入を緩和することを考えました。結果として、外と中との間に中間領域(玄関ポーチの広さ)を作ることもでき通行人との距離もさらに確保することができました。
君島土地の弱点を弱点と思わず、むしろ特性として生かし設計しているように感じます。
小泉建築家は、今回のモデルハウスの設計に限らず様々な土地の弱点と対峙していきます。問題に対する解決法を私たちも知ることで、住まい手の土地選びに対して正確なアドバイスをすることができるんです。これから土地を購入しようとする方は、決して先入観を持たず難しいと思われる土地に対しても気軽に相談してほしいですね。
藤本予算をかけずに解決する方法を探し出すのは当然ですが、予算をかければ建築でデメリットを解決できることも多くあります。
適切な配置を考察する
配置図から見える建築家の考え方は、片側2車線の大きな道路に面しているという点から、大型車両の通行が多いため音の問題と振動の問題を考慮しなくてはならない(図❷)。その問題を解決するために、車道に面する窓の位置をなるべく道路と距離を取る(図❶)。歩道から距離を取ることで、歩行者からのプライバシーを阻害される問題がある。この点の考慮からも、歩道に面した窓を歩道から距離を取ることでプライバシーの侵害を緩和する対策を取った(図❷)。
南側は高いビルに建て替えされる可能性のある土地であるため、南側に大きな窓を設けても採光が期待できない(図❸)。東側も隣家が迫っているという状況であることから、東の午前中の採光も制限される(図❹)。この図❸と図❹の状況から、東と南の方角からの採光を得る計画では将来に渡っての採光のリスクを回避できないと考えた。そこで、採光を取る方角を西側と定めた。
軒を深くして西側からの
直射日光の進入を緩和する
西側から採光を取り入れる場合、夏場の西日の進入により室内の温熱環境の悪化に対し考慮しなくてはなりません。夏場の正午、南からの日差しは太陽の高度も高く30センチ程度の庇でも直射日光の進入を防ぐことができます。
しかしながら、夕方の西から入る直射日光は太陽の高度も下がり横から入ってきます。そのため、ちょっとした庇程度では直射日光の進入を防ぐことはできません。その対策として、深い軒を作ることで西日の進入を緩和した。(図❺)
光の取入れは、直射日光だけに頼るものではありません。一旦地面に当たった光がサッシのガラスを通り入ってきたり、天井や壁などに当たった光が室内に侵入してきたりします。反射光は様々なものに当たりながら進入してきます。
直射日光とは異なり、強い光ではなく反射によって柔らかい光として拡散しながら室内に取り込まれます。夏場の西日も反射光として室内に取り込めば気持ちの良い光となって室内を明るくしてくれます。(図❽)
建築家藤本氏は、土地の様々な要素からメリットとデメリットを抽出し設計に反映する。住み手の暮らしに対する希望を叶えるのはもちろんだが、その土地でなければ生まれない設計を描き続けている。