Architect Interview 小林大輔×石川昂

家族の“空気”が循環する。視界と生活が広がる家

シャープなフォルム、ベージュグレーの外壁に白いサッシの大きな窓。
広島県のO邸は、やさしい色合いや素材感の中にも芯の強さと普遍性をたたえた外観が印象的な家だ。
この土地に家を建てる決め手となったのが立地と景色だという。
「絶対に吹き抜けがほしい。開放感がある家がよかった」という強い希望を持っていたO夫妻にぴったりの、
高台で見晴らしがいいこの地に、どのようにしてこの家は建てられたのか。
建築家であるアーキテクチャー・ラボ石川昂建築設計事務所の石川昂氏、工務店CODA DESIGNの小林大輔氏、
施主であるO夫妻に話を聞いた。

About Feature Perspective And Meisters Company Profile KIMIJIMA and

家族の“空気”が循環する。視界と生活が広がる家

シャープなフォルム、ベージュグレーの外壁に白いサッシの大きな窓。広島県のO邸は、やさしい色合いや素材感の中にも芯の強さと普遍性をたたえた外観が印象的な家だ。
この土地に家を建てる決め手となったのが立地と景色だという。「絶対に吹き抜けがほしい。開放感がある家がよかった」という強い希望を持っていたO夫妻にぴったりの、高台で見晴らしがいいこの地に、どのようにしてこの家は建てられたのか。建築家であるアーキテクチャー・ラボ石川昂建築設計事務所の石川昂氏、工務店コCODA DESIGNの小林大輔氏、施主であるO夫妻に話を聞いた。

家族の“空気”が循環する。
視界と生活が広がる家

Architect Interview 小林大輔×石川昂 Feature | Oct.2020

石川昂 写真
石川昂(いしかわ・こう)/1982年生まれ。2004年日本大学理工学部建築学科卒業。その後、有限会社アーキテクチャー・ラボにて個人邸・商業建築を手がけ、2016年アーキテクチャー・ラボ石川昂建築設計事務所を開設。あらゆる可能性から設計の答えを導き出し、顧客の要望に応える設計を数多く手がけている。
小林大輔 写真
小林大輔(こばやし・だいすけ)/1980年広島生まれ。2001年建築家の父の影響で大工の世界へ。2005年独立し、2006年有限会社D・Uコダ取締役に就任、お客様の声をもっと尊重したいと下請けを辞め、100%元請になると宣言する。2008年代表取締役に就任。「あなたの大切なものを大切にしたい」を経営理念に、お客様に寄り添った家づくりを行っている。

土地や暮らしと会話する家づくり

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君島この土地の第一印象、住宅を建てるにあたってのポイントを教えてください。

石川一番のポイントは、高台で坂道が多い場所であること。そして、官舎跡地の新しい分譲地なので、これから周囲にどのような家が建つのかなどわからないで敷地の問題をどう解決するかです。(土地や図面をみると)周囲に家が建つという想像はできるのですが、旦那さんが仕事柄朝早いので、東側に日を当てられるように設定したい。かといって道路側の日当たりの良い南側を捨てるわけにはいかない。

そのバランスを鑑みると、東側の隣家との間を確保した建物の配置にすると多少隣家より建物自体が道路側に配置される。道路から見たときに、建物が隣家より1mちょっと出て目につくはずと予想しました。道案内するときのキャッチャーさもあったほうがいいかなとも思いました。駐車スペースは2台分を希望されていましたが、普段は車1台で友人や親族が来たときに2台停められればいいということだったので、縦列するようにすれば東側が開けられてセカンドリビングから外に出ることもできると思いました。

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君島南側はもちろん、東側を重視したんですね。

石川むしろ建物のコンセプトを考える上でベースとしたのが東側。東側の隣家との距離を出して独立性を高めることで生まれる快適さが重要。帰宅したときに周囲に気を遣うよりは、自分の敷地が認識できて、できるだけ周りに影響されない完結した状態を作ることが大事だと思いました。

あとは、隣地の建物を見ていても、道路と敷地に段差があるので、南側に庭を作ってもフェンスを立てているんですよね。南側に庭的スペースを作るのは自然な考えであるものの、今回の敷地においては、東側にもっと自由に使えるスペースがあるほうがいいと思いました。

例えば、家族が増えたら子ども用のプールを出せたり。東側は真夏でも午後になれば日陰になるので、直射日光も気にせず快適に使えると思います。車を少し前に出せば、子供が急に飛び出る心配もありませんしね。

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君島南側となる建物の表側は、大きな十字の窓が印象的ですね。

石川そうですね。この窓を際立たせて全体を整えた方がいいだろうと考えました。あとは、各階の窓をノーマルに作って、間取りの配置が外から推測できるのは避けたいと思ったんです。『これトイレの窓だな』とか『ここはキッチンだよね』とかって建築に携わっている人、あるいは自分で家を建てた人ならわかってしまいます。駅からも近いですし、セキュリティの観点からも少し丁寧に設計したほうがいいと思いました。

君島なるほど。表側にもうひとつ、1階部分に窓があるのはどうしてですか?

石川これは街との関わり合いを考慮したもの。屋内には吹き抜けがあって大きな開口部もあるけれど、視線の高さに窓がないと近所との関わりを拒絶しているような気がしたんです。初めて住む土地だし、家の中が見えても問題ない場所に街との距離感を詰める機能を持たせるといいと思ったんです。

君島窓が白枠で、壁面が色がベージュグレーというカラーリングも印象的です。デザイン性の高い建物でありながら、流行を追ってないカラーリングですよね。

石川まず全体的に、強さというよりは、もう少しかわいらしい印象があった方がいいというイメージがありました。このあたりは高低差が大きくて、各地にコンクリートの擁壁があります。最初はグレーでもいいかもと思ったのですが、そうすると擁壁の色と一体化しすぎてしまう。周囲の家がグレートーンなので、それに対してちょっと色相を足すことで建物がより映えると考えたんです。

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光で導線を作り、空気を可視化する

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君島プランニングでの施主さんから一番強い要望は?

O夫妻吹き抜けですね。開放感がある家がよかったので、吹き抜けは絶対ほしいよねという話をしました。あとは暗い家はいやだなと。

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君島玄関から続く階段スペースを利用した吹き抜けが、家全体を象徴していますね。

石川家族が集う明るい空間を考慮すると2階がリビングとなるのですが、そうすると上下で生活機能が別れてしまうことが多いんです。1階では寝るだけ、その他の時間は2階で過ごす、となってしまうところを、できれば上下で行き来の多い家にしたい。そういう意味も込めて、階段の踊り場もちょっと広く設計しました。それによってゆとりが出て、帰ってきても2階に上がるのが億劫に感じないよう、上まで自然と導ける空間にできるといいと思ったんです。

君島工務店として気をつけた部分は?

小林工務店としても吹き抜けの空間が、この家の一番大切な場所だと考えていました。その吹き抜け空間を構成する大事な要素が鉄骨階段です。特殊な階段の形状になっているので、1からオーダーメードで設計しないと収まらない。

工場で作って現場に持ってくると誤差が出る可能性があったので現場の職人は相当気を使ったと思います。手摺のデザインだけでも印象が大きく変わります。段板を支える鉄骨の部分を「ササラ板」と呼びますが、このササラ板の鉄骨の幅を薄くすることも石川先生の狙いだったと思います。

君島ササラ板の鉄骨幅を薄くしたのは、なるべく軽いイメージにしたかった?

石川そうですね。幅広だと少し野暮ったい印象になるので、薄いほうが美しいと思ったんです。あとは、支柱を鉄骨にしたというのも難しかったと思います。ここに木の柱を立てるのは施工的にも難しい。あとは、階段下の空間をより使ってもらえるよう、柱を細くするために鉄骨の柱にしたかったんです。

鉄骨の色も、ここは日が当たるところだから、どちらかというと光を重視し、広がるようにしたいから物が強く出たくないという話をして白にしました。階段としてのプロダクトを見せたいわけではなく、この吹き抜けの空気感を見えるようにしたかったんです。

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君島この吹き抜けを中心に、家全体の回遊性が高い印象です。

石川Oさんから、できるだけ広がりがほしいという話があったんです。リビングスペース、ダイニングスペース、読書スペースなど2階のLDKは多機能に生活できるよう間仕切りはなるべく最低限にし、空間としてつながりのある形にしたい。料理などは立った状態でするし、本を読むときは地べたに座って読んだりします。

立っている状態や椅子に座っている状態、さらに場地べたに座って生活するシーンなど様々な高さで生活することも想定して程よい仕切りの高さや間仕切り幅にしました。空間で視線は通うけれど、誰かの足下で生活してるようにならないように空間にスクリーンを立てていって、それぞれの居心地のよいスペースをつくるというイメージにしました。

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ゆるやかな仕切りで気配が循環する。

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君島設計と暮らしの互換性について

O夫妻毎日家に帰るのが楽しいです。仕事で疲れて帰って来ても、わが家が近づいてくるたびにテンションが上がるのがわかります。家の中でも生活していても退屈するということを全く感じません。1階と2階を頻繁に行き来していますし、導線でも困ったことがない。家に帰って、風呂入って、2階に上がってご飯食べて、趣味の場所であるごろ寝スペースやロフトでくつろぐという流れがすっかりできています。

お互いが違う部屋にいても声が届くし、どこにいても家族の気配を感じることができます。石川先生が意図してくれているように、私たちも家全体を使い切り楽しく生活しているのが実感できています。

石川よかったー!うれしい。道路と建物の関係性が成立しているし、家具も私が提案した図面の通りに配置してくれています。家具入れて生活してから見せてもらえることがなかなかないので、うれしいですね。

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editorial note

建築家として、その土地のパフォーマンスをどう読みとくか?建て主の暮らしのイメージとどのようにマッチングするのか?多角的に読み込んで設計されたプランを、工務店がさらに読み解き、現場の技術を駆使して形にしていく。O夫妻、建築家の石川さん、工務店の小林さんが一つのゴールに向かって進んでいくプロセスが垣間見れた。何一つ欠かすことのできないジグソーパズルのように繊細に作り上げられた住まいで、建て主が暮らしを紡いでいく。建築家とつくる注文住宅の醍醐味が詰まった住まいだった。

君島 貴史(きみじま・たかし)
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