中澤勝一建築のN9designモデルハウスが、どのようなコンセプトで作り上げられてきたのかを解剖する。N9designがHEAT20 G3のスペックの住宅性能を採用した理由は、「豊かな暮らし」を提供するための手段である。性能×設計×技術から生み出される住まいの価値を体感できるモデルハウスとなった。
長野という地域に根差した
「N9デザイン」というブランド【後編】
陽だまりのある生活
玄関土間に差し込む光が楽しい。玄関でありリビングであり、土間空間は多目的な中間領域として存在している。使用目的が住まい手に任されている多機能な土間空間に光が差し込み、住まい手のインスピレーションを掻き立てる。リビングの上部から差し込む光の筋も季節によって変化する。光の入り方を見ながら季節の移ろいを感じるのも一興なのであろう。
ダイニングエリアにはL字のベンチを採用した。ベンチに座りながら、大きな窓の外にある植栽に目を向けてみたり、葉と葉の間から抜けてくる光を浴びながら食事を楽しむ。暮らしの中に様々な陽だまりを作り、季節感と共に光の時間を感じるのも「日々是好日」。
基礎から断熱する
土間空間は、中澤勝一建築が採用する基礎断熱によって快適性が保たれている。『基礎はコンクリートの素材で作られています。コンクリートは蓄熱する素材ですので、冬の寒さにコンクリートを晒してしまうと、冷えが蓄熱し室内に冷輻射として熱を伝えてしまいます。信州の冬は厳しく、その寒さをコンクリートの基礎を通じて室内に入れてしまっては、底冷えする寒さに耐えながらの生活を余儀なくされます。どんなにデザインが良くて、間取りが広くても、夏暑くて冬寒い住まいは楽しくないと思うのです。』と中澤氏は言う。冬の暖かな陽だまりの土間を楽しむための配慮が基礎断熱からもうかがえる。
内外のつながりを設計する
外の空間が内部とつながりを持つと、空間だけでなく生活の幅も広がっていく。玄関土間から外の土間につながり、庭へとつながっていく。家の中の遊びと外の遊びがシームレスにつながり、家族の楽しみも広がっていく。バーベキューをしたり、テントを張って遊んでみたり、土間先に椅子を置いて陽だまりの中でお茶を楽しんだりと、暮らし方のバリエーションが多くなり生活が豊かになっていく。
庭先に植えるモミジの樹形にもこだわりを持って植栽する。外観デザインと植栽のバランス。リビングから土間のサッシのガラス越しに見える植栽の位置なども計算に入れている。アウトドアリビングを設計することもN9designのコンセプトとなる。
職人の技術で実現する
高性能住宅は、高性能にしていけばいくほど施工の難易度が上がっていく。断熱材は厚くなり、外と内とでダブルで施工していく。G3スペックの住宅性能で気密を守りながら施工をしていくことは理論以上に難しいと中澤氏は言う。作業量も大幅に増えていくことで施工チェックの回数も自ずと増えていく。
断熱材は、ただ貼ればよいというものではなく、結露を防ぐ気密性も担保しながら施工しなくてはならない。作業量が増えていく中で、気密性を作る正確で丁寧な施工が求められていくのだ。棟梁の一人は言う「難易度が上がり手間は増えても、確実に良い住まいを適正な時間で作り上げることが大事」と。中澤勝一建築の「大工魂」は、難易度の高い施工に対して挑戦し続けている。
日々是好日
設計者であるナカタヒロヨ氏は今回のモデルハウスのテーマを「日々是好日」とした。「日々是好日」はナカタヒロヨ氏のライフテーマでもある。設計者として主に住宅を手掛け続けてきたナカタヒロヨ氏は、特別でない普段通りの日常がある時間が豊かだと感じている。決して奇をてらうことなく普段使いが心地よい住まいを提案し続けてきた。その土地の特性を素直に受け止め、自然や街並みに溶け込む建築を意識し続けている。長野の風景の中には黄土の土壁が多く存在する。長野の歴史や伝統を意識した黄土の土壁を表現した仕上がりを採用したのも地域に溶け込む建築の思想からくるもの。
長野は周囲360°山に囲まれている。今回の敷地も東西南北に山が望める立地だった。室内のどこからも長野の山が望めるよう配慮した窓の配置。長野の四季を常に感じられるよう設計されている。当たり前の景色を特別な記憶にのこすこと。これも「日々是好日」のコンセプトからくるものである。G3という住宅性能を設計に取り入れた新しい生活者への提案がある。固定概念にとらわれない空間のあり方、そして住まい方があるのだと思う。
N9design
N9designが挑戦したモデルハウスは、「設計」と「性能」と「技術」の関係性の中でつくられている。G3の住まいづくりは、これらの要素の何が欠けても成り立たない。ただ、性能の良い住宅をつくるということにとどまらないブランドがN9designだ。
すべての答えは、住まい手の「日常」にあるのだと考えている。日常は、住まい手によって千差万別。その土地の風土や習慣を背景に、住まい手の要望に応えていく。中澤勝一建築の伝統と知恵が、G3スペックの住まいづくりへの挑戦の原動力となっている。進化はまだまだ止まらない。
navigator
君島貴史(きみじま・たかし)/1975年東京生まれ。横浜を中心に150棟以上の建築家との住まいづくりに携わる。デザインと性能を両立した住宅を提案し続けています。「愉しくなければ家じゃない」をモットーに、住宅ディレクターとWebマガジン「andarchi」の編集を行っています。