中澤勝一建築のN9designモデルハウスが、どのようなコンセプトで作り上げられてきたのかを解剖する。N9designがHEAT20 G3のスペックの住宅性能を採用した理由は、「豊かな暮らし」を提供するための手段である。性能×設計×技術から生み出される住まいの価値を体感できるモデルハウスとなった。
N9design HEAT20 G3 モデルハウス [ 設計:一級建築士事務所ナカタヒロヨスタジオ 中田啓予 施工:中澤勝一建築 所在地:長野県長野市 ]
- 敷地面積:238.56m2 (72.16 坪)
- 延床面積:1F 61.27m2 2F 38.92m2 計 100.19m2(30.33 坪)
- C値:0.23cm2 / m2
- Ua値:0.22w / m2・K
長野という地域に根差した
「N9デザイン」というブランド【前編】
地元の力で価値のある住宅風景を守っていく
N9designの大切にしているコンセプトは、地元の力で価値のある住宅風景を守っていくこと。これは、中澤勝一建築が目指している住まいづくりの根底にある思いだ。「大工魂」という言葉に込められたメッセージは、このような価値観からインスピレーションされた。大工の職人は、経験の豊富な年配者からこれから大工職人として一人前を目指す若手まで所属している。技術の伝承を通じて、地元に価値のある住まいづくりを残していくためだ。
N9designのモデルハウスは、高い住宅性能とデザインを両立しながらコストパフォーマンスの良い住まいを表現している。全てにおいて中澤勝一建築の大工は、性能の担保やデザインの再現性はもとより、品質を守りながら工期を短縮するという技術を兼ね備えているということだ。N9designが提供する価値のある住まいは「大工魂」という思想に支えられている。
その答えは「日々是好日。」
中澤勝一建築のブランドであるN9designは、これからの住まいづくりをG3のスペックで建てることを提案している。その第一弾となるモデルハウスが完成した。建築家ナカタヒロヨ氏がG3の性能を利用して設計した住宅の答えが「日々是好日。」
いつもある日常的な時間が豊かであることを実感できる空間を目指したのが、G3スペックのモデルハウス。長野に居を構えるナカタヒロヨ氏は信州の気候を熟知している。夏と冬の厳しい気候をストレスなく穏やかに暮らせることを表現した設計となった。
快適性
断熱性能Ua値0.22W/m2・K以下、気密性能C値0.23cm2/m2以下という超高気密高断熱性能を有するモデルハウスは、一年中春のような快適性を低ランニングコストで実現する。一歩室内に入ると玄関からLDK、そして脱衣所に至るまで家中が一定の温度で保たれ快適である。部屋ごとの温度差は生活者のアクティビティを低下させる。家中が一定の温度で保たれていれば階段スペースや玄関スペースまでもがリビング空間の一部となり生活の幅が拡がると考えている。
モデルハウス内の空気はとても清涼で心地よい環境を保っている。これに寄与しているのが「涼暖」。涼暖とは、床下(基礎内部の空間)や階間(1階と2階の間の空間)に空調の風の通り道を作り、各部屋までエアコンの風を送り込むシステム。室内空間の空気を大きく攪拌することなく家中を一定の温度に保つことのできる新しいシステムだ。
涼暖によってエアコンの風を直に感じることが無いため、清涼で静かな空気環境が保たれている。特に冬場の乾燥を気にする方などへはお勧めできるシステムだろう。人が乾燥を感じる理由の一つが風の流れ。風を身体に直接感じると肌の表面から湿気が奪われ乾燥を過度に感じることになる。快適性を確保するためのあらゆる選択がされているモデルハウスと言えよう。
広がる生活空間
家中を一定の温度で均一に保てる住宅性能は、間仕切りを少なくすることができる。G3の住宅スペックは、設計の概念を変化させる。間仕切りを少なくすることで、玄関からLDK、そしてリビング階段にすることで2階の居室へと空間がつながっていき、開放性のある生活空間が得られる。
玄関スペースや階段空間や廊下がリビング空間と一体となり、これまでの生活空間の概念を変化させる。どこからが玄関でどこからがリビングなのかが曖昧となり、いつの間にか階段空間を抜けてキッチンエリアにたどり着く。住まい手にとってはどのエリアも居場所となり生活の場が増える。生活の場が増えれば住まい方のバリエーションも必然と増えてくる。
ナカタヒロヨ氏とN9designが新しい生活の仕方を提案している。これにより必要以上の大きさの建物を建てることなく広がる生活空間を実現できるのだ。断熱性能にコストをかけると、余計な大きさの建物をつくることなく広い生活空間を獲得することができるという考えにもなっている。
圧倒的な吹き抜け空間
リビング空間において圧倒的な解放感を演出するのが「吹き抜け」。ソファーに座れば、視点が低くなり天井の高さがより高く感じられ開放感を感じることができる。リビングの天井は外側の軒裏とつながる木板のデザイン。外の軒裏とつなげることで自然と視線が外へと導かれる。同素材で空間をつなげていくことで開放性を更に演出する。吹き抜け上部のハイサイド窓は、内と外をつなげるだけでなく、その先の長野の空を切り取りピクチャーウインドウとして景色をリビングに取り込み住む人を楽しくさせる。
安心感のある剛性と快適性を確保する温熱環境は、吹き抜け空間の居心地に直結する。どんなに開放的でデザイン性が良くても、安全性に不安を抱え、上下の温度差を感じる不快感は居心地の良い空間とは言えない。住宅性能を熟知したナカタヒロヨ氏の大胆かつ緻密な設計技術が「圧倒的な吹き抜け空間」をつくりだしている。
シンボリックな壁が果たす効果
床から天井までグラデーションでつながっていくシンボリックな壁がリビングに存在している。唯一、このモデルハウスのアクセントと言っても良いかもしれない。この壁は、ゾーンの分離や視線の抜けや止め、光の反射、蓄熱、など様々な効果のためにナカタヒロヨ氏は最初からこの壁を設計の中心に置いている。
壁の裏側には人が行き来する廊下的な空間と階段が存在している。様々な機能の空間が曖昧につながることを計算し、壁を設計した。すべてがオープンにつながることで開放性を作ることもできたが、今回はあえてそれぞれの機能が完全に遮断されることなく緩やかにつながるよう構成された。壁は、時には落ち着くための拠り所ともなる。完全に仕切られていないシンボリックな壁の周りに家族が居場所を見つけ緩やかにつながる距離感をつくりだしている。
【後編 episode_031】へ続く
navigator
君島貴史(きみじま・たかし)/1975年東京生まれ。横浜を中心に150棟以上の建築家との住まいづくりに携わる。デザインと性能を両立した住宅を提案し続けています。「愉しくなければ家じゃない」をモットーに、住宅ディレクターとWebマガジン「andarchi」の編集を行っています。