MORIKEN HAUSの森田氏のモデルハウス計画は「畑の横の土地」を選んだ。森田氏は敷地の特性を活かしたモデルハウスの設計を求め、建築家河添氏は畑の隣という環境を建築家の感性で捉えにいく。畑という環境をプライバシーの阻害要因と捉えるのかどうかがポイントとなったプロジェクトである。
MORIKEN HAUS 秋葉台モデルハウス [ 設計:河添建築事務所 河添 甚 施工:MORIKEN HAUS 所在地:滋賀県大津市 ]
- 敷地面積:202.07m2 (61.11 坪)
- 延床面積:82.39m2 (24.92 坪)
- C値:0.22cm2 / m2
- Ua値:0.44w / m2・K
畑の隣という居心地の良さ
Feature|Jan.2023南側に位置する畑の環境
今回のモデルハウスのプロジェクトは、南側の隣地か畑という環境で進められた。周囲は閑静な住宅街で車の往来はほとんどない静かな住環境が保たれている。前面道路は狭く車のすれ違いはできない幅員だが、閉塞感は感じない敷地。隣地が畑である環境が、住宅街の中にある公園的な役割を果たし街並みにゆとりをつくりだしている。
住宅街の一角にある共同菜園だ。日常的に畑作業をする近隣住民が出入りする環境。この環境を河添氏はどのように捉えたのだろうか。
設計者は、まず現地で土地の確認をすることが鉄則だ。その土地に足を運び、現地でないと把握できない情報を捉えにいく。
- ・不特定多数の人は入ってこない住宅地
- ・前面道路はさらに狭いので車の往来が少ない
- ・畑の管理人はいつも同じ人が来る
上記のような情報は、実際現地に足を運んでみないと確認しづらい情報となる。特に周囲の人の様子は現地でないと確認できない。河添氏は、思った以上に近隣住民の親しみやすさを感じていた。大津の住人の特性というべきか。
現地の特性から河添氏は、畑はプライバシーを阻害するものではないと判断。ゆくゆくは住まい手が隣の畑を借りて家庭菜園をやりながら暮らすイメージを沸かせていた。これにより、河添氏は畑とのポジティブな関係性を設計で解いていくことになる。プライバシーに対してどう考えたかと質問すると「議論となることはあえて提案する」という答えが印象的だった。
玄関とリビングの関係性
森田氏は河添氏にオーダーしたモデルハウスの計画は平屋。しかも、なるべく小さく作ってほしいとの要望。正面から見るファサードは極めてシンプル。白い塗り壁を基調とし、玄関ドアをアクセントとした四角いデザインとなった。平屋にすることで道路から見た時の低さが非住宅に感じるようにしたかったという。
玄関扉を開けると大きな玄関スペースとなっている。玄関スペースの奥には中庭を臨む大きな窓が設置された。エントランスにはサプライズ感が欲しかったと河添氏は言う。広く設計された玄関土間はリビングと直結し、リビング土間としての機能も兼ね備えている。土間にバタフライチェアを置くとリビング空間として落ち着くスペースとなる。玄関からリビング、そしてダイニングキッチンへとシームレスにつながっていく。
平屋の設計はなるべく廊下を廊下としてつくらないことがポイントとなる。廊下がリビングやスタディスペースと同化し多機能なスペースとなっていく。小さな平屋を設計するには、廊下や玄関を多機能なスペースにし、合理的な間取りにしていく必要があった。当然、玄関スペースが寒い空間となればリビングとして成り立たなくなる。基礎断熱を採用するモリケンハウスの住宅性能が必要となる設計だ。
隣地の畑との関係性
森田氏が用意した敷地の宅盤は畑より1mほど低い。この要素がモデルハウスの設計に大きな影響を与えることとなる。河添氏は畑とのポジティブな関係性を設計したいとの思いから、畑と住人との関係性を中庭が繋いでいく設計となった。
中庭のデッキと畑との高低差は70センチほど。隣地のブロック塀を背もたれにしながら座ると落ち着く居場所となった。少し下がっていることで、外でありながらこもり感を感じることのできる不思議な空間となった。
デッキに座布団でも置いて座れば、畑が不思議な高さで見えてくる。デッキのレベルで座視すると違う世界が広がる。畑の地面が目線の高さと並ぶ。畑では農作業をする人が見え、畑の向こうには道路があり行き交う人々の動きが面白い。一日中眺めていても楽しい空間だ。ここでバーベキューをするなら絶対座布団を敷いてやるのがお勧め。非日常的な目線が広がり、ここにしかない楽しさが感じられる空間となった。
MORIKEN HAUSのスタッフの方にも座視で感じてもらう。住宅の魅力は図面だけではわからない発見や感じ方があるもの。実際に空間に身を置いて経験する建築の体験は将来活きてくるはずだと森田氏は言う。
畑との境の塀
畑との境は、畑の土留めの為のブロック塀が存在する。森田氏は塗りなおそうかと思ったブロック塀だが、三角の笠木や年季の入った経年変化の感じは逆にノスタルジックで愛着が湧いてくる。真新しい壁と畑の取り合わせより、古い塀と畑の関係性の方がしっくりくると考えた。住まい手が隣の畑を借りて農作業を始めるときには、この古いブロック塀に農作業用のスコップなどがぶら下げられていてもいい感じに見えるだろう。見方や感じ方、そして暮らし方によってモノの見方が変化することを森田氏は知っている。
なるべく低く見せる
河添氏は建物の高さをなるべく低くしたかったという。畑より一段低い計画地の特性も利用し建物が低く見えるように設計された。現代は経済性を優先した階層を重ねる縦長な住宅を建てられることが多くなっている。2階建てや3階建てが一般的な住宅の形となっている現在において、平屋で建物の高さを低くすると「非住宅感」が生まれてくる。低くすることで建物のとしての安定感も感じられるようになる。建築物としての派手さはないシンプルで控えめな設計となるが、年月を重ねても飽きのこないファサードとなった。周囲の環境と河添氏の設計思想が合理的に融合した玄人好みな住まいである。
白い外壁に黒の玄関ドアの組み合わせも、非住宅感を表現したかった河添氏のこだわり。それを施工でしっかり表現する森田氏の技術が合わさってできた建物だ。
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君島貴史(きみじま・たかし)/1975年東京生まれ。横浜を中心に150棟以上の建築家との住まいづくりに携わる。デザインと性能を両立した住宅を提案し続けています。「愉しくなければ家じゃない」をモットーに、住宅ディレクターとWebマガジン「andarchi」の編集を行っています。