敷地のポテンシャルをどう解釈するか
広島県広島市の地域は、平坦な敷地を確保することが難しい。坂が多く、高低差が多い地域で建築を困難とする条件も少なくない。コダデザインのモデルハウスは、そんな広島の特徴を表す立地に建てることとなった。
今回のプロジェクトの設計者はn+archistudioの中村文典氏。中村氏は福岡で設計事務所を構え、福岡のみならず全国で数多くの設計に従事している。バイクや車、キャンプなど数多くの趣味を持ち、あらゆる感性にアンテナを伸ばしながら幅広い見識を武器に設計をしている。
敷地はカーブしながら下がっていく坂に面した北西の角地。北西の角地は、窓の設置の仕方が難しく、西日の採光によって室内の温熱環境を悪化しがちで設計が困難になる。敷地は64.73坪で大きさは十分であるが三角形の地形。三角形の地形は、無駄な余白ができやすく効率的な設計を阻む。2台分の駐車場を確保することが条件となるモデルハウス設計は、建物の配置と形状に制限をかけることとなる。
インテリアの中心はキッチン
ダイニングエリアとリビングエリアに挟まれようにキッチンを配置し、キッチンに立つ奥様がいつでも暮らしの中心に位置する心づかいが中村氏らしい設計だ。家族の声に耳を傾け、土地のパフォーマンスを最大限に生かし、暮らしをイメージする。中村氏はキッチンが中心の暮らしが今回のプロジェクトにふさわしいと判断。家族がいつでもキッチンにアクセスしコミュニケーションをとっている風景が目に浮かぶ。
リビング越しに広がる西側の借景やダイニングの奥に広がるデッキ空間、キッチンを中心として広がりのある設計。「閉じる」と「開く」のメリハリをつけた設計は機能的であり開放的。閉じるとは、窓の開口部を設けず収納などの機能性を担保したエリア。開くとは、窓の開口部を設け開放性や採光を積極的に確保するエリアである。
光の入り方を設計する
住宅設計において窓の配置、大きさはとても重要な意味を持つ。特に窓の機能の一つである採光は、暮らしに大きく影響する。大きな窓をたくさん配置すれば当然明るくなるが、同時に温熱環境を悪化させる可能性も出る。コストを調整する際も影響が小さくない。木造住宅であれば耐震性能にも直結する。内観、外観デザインにも関係するため、窓は設計を決定する重要な要素となる。それだけに窓の配置は難しい。
今回のプロジェクトにおいて最大のポイントは西側の景観を生かすか、温熱環境を重視するか。多くの設計者は景観を生かすことを優先するだろう。その土地のポテンシャルを生かしながら、高性能な部材を用いて温熱環境を確保する。西側の出窓にはヌック的に使用できる空間で本を読んだり、コーヒーを飲んだりと、昼の時間は南側に配置した窓からの気持ちの良い光を感じながら過ごす。四季や時間によって変化する光の移ろいが楽しい設計となった。
角地としてのファサード
角地は街並みに大きく影響する立地とも言える。その街並みの印象に大きく関わるため、設計者としても力が入らざるを得ない。あまり道路側に建物を寄せると街並みに対して圧迫感を与える。余白をつくりながら、植栽を植えるスペースをつくり街並みに緑を配置していく。設計は、暮らしの器をつくると同時に街並みの形成にも気を遣う。
西側の外観は、やはり吹き抜けいっぱいに設置した窓が印象的。一つ一つの窓が一つの塊に見えるよう外壁の色と併せてデザインした。夜は均整のとれた窓から漏れるあかりが美しい。
正面はシンプルで四角いファサードに玄関ポーチ内を木の壁としアクセントとした。玄関の奥をルーバー状にし、緩やかな開放性を確保した。ルーバー越しに入る昼の光を柔らかくし雰囲気の良いものとした。夜は程よくシンボルツリーをライトアップし幻想的な雰囲気になる。美しい住宅は日々のモチベーションを向上させ、明日の活力になるような気がする。
緑の大切さ
中村氏と小林氏は、設計の段階から外構やインテリアの緑の話をしていた。それだけ住宅設計において緑が重要であると考えているからだ。
両氏は、設計前の土地のパフォーマンスを確認する作業の時も緑の配置の話をしていた。角地としての緑の配置の重要性、住宅の外観としての緑の配置、アプローチを楽しく歩いてもらうための緑の配置、そしてインテリアとしての緑と。外構の緑は中村氏が計画し、小林氏が樹形を確認しながら施工した。ライティング計画も緑の配置と共に計画し効果的な演出を考える。インテリアの緑は、暮らしながら増やしていくのも楽しみの一つであると考えている。
editor
君島貴史(きみじま・たかし)/1975年東京生まれ。横浜を中心に150棟以上の建築家との住まいづくりに携わる。デザインと性能を両立した住宅を提案し続けています。「愉しくなければ家じゃない」をモットーに、住宅ディレクターとWebマガジン「andarchi」の編集を行っています。
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