AND MEISTERS AND MEISTERS

アンドマイスター。マイスターはドイツ語で「巨匠」とか「職人」という意味を持つ。
and archiでは、設計者とのプランニングから建築現場の職人の仕事や家具などのプロダクトに至るまで
「ものづくり」の魅力に焦点を当てていく。

アーキテクトの視点は、最終的なプロダクトができるまでのすべての工程に連動していくと考える。
アーキテクトからマイスターまで、ものづくりの意志は伝わっていくのだと思う。

   南アルプス眺望    南アルプス眺望

ものづくりの基本

Feature|Aug.2022

地域工務店として

荷上げ 荷上げ   

長野市の中心には善光寺。7年に一度の盛儀として「御開帳」が有名な寺だ。参道には多くの人が行き交い、信仰の盛んな土地。そんな、長野市の地域に寄り添い住まいづくりをしているのが中澤勝一建築。創業は昭和11年と歴史のある工務店だ。

  

長野市は登山客にも人気のある山々に周囲を囲まれ、緑や水の豊かな地域である。夏は涼しく冬は寒い、そんな印象を持たれがちな長野の気候だが、実は夏は暑く冬は寒い。年間を通じて寒暖差の大きい地域となっている。そのような気候特性を熟知している地域の工務店だからこそ、提供できる建築の品質がある。

  

性能を重視し、デザイン性も兼ね備えた住宅を自社大工の技術で施工し提供していくことが中澤勝一建築の強み。中澤社長は、長野という土地でどんな付加価値が創造できるかを考えている。高品質な住まいの提供、維持管理、そして再生。地域の活性化を念頭とした人材育成までにも至る。中澤勝一建築の挑戦は、地域を良くしていくことを目指すものとなっている。

中澤毅社長 中澤毅社長

ものづくりの基本

その日は中澤勝一建築の「建前」。晴天に恵まれ作業が進められていた。建前とは、柱を立て屋根の構造まで一気に組み立てていく作業。住宅建築の工程の中で一番の醍醐味かもしれない。安全に気を配り、手際よく作業を進める大工集団の作業につい見とれてしまった。

建前1 建前1

現場にはベテランの大工から見習いの大工まで建前に精を出していた。今年、新卒で入社したばかりの女性社員(設計、監督志望)も現場の研修で作業に加わる。中澤社長は、常に現場を大切にしている。新入社員は、まず現場で仕事を覚えることから始まる。

中澤社長は、「ものづくりの基本」は現場にあると考えている。監督の指示のもと作業は見る見るうちに進んでいく。現場にある緊張感と職人たちの息の合った連携によって正確かつスピーディーに作業が進んでいくのを現場で体感するのだ。ものづくりの楽しさや厳しさ、そして難しさを肌で感じる。教えられなくても大工の背中から伝わってくるものがある。

現場研修 現場研修
クレーン職人 クレーン職人

クレーンの職人もいつもの職人。大工との息もぴったりで、構造材をトラックから吊り上げ、決められた場所に正確に運んでいく。一つ間違えばケガでは済まされない。迅速かつ正確に、一番大事なことは安全に。事故が起これば、おめでたい上棟という日が台無しになってしまう。建前は、慣れた大工にとってもいつも緊張感あふれる特別な日になる。

大工魂 大工魂

大工魂

中澤勝一建築は、「大工魂」という言葉を会社の大切なブランドとして掲げている。やはり、建築の要は「大工」だと考えているからだ。昔は、将来なりたい職業ランキングに大工が上位にあった時代もあった。しかしながら、近年は様々な職業が身の回りに増え、大工になりたいという子供たちが減ったように思う。

その原因として、大工の仕事を見る機会が最近は少なくなったからではないか。大工の仕事が一番輝く「建前」の仕事も、構造材を工場で事前に製材したり、現場でのクレーンの活用などにより建前が短時間で終わるようになった。それが、大工の仕事を見る機会の減少につながっているのかもしれない。いつかしらか、大工のかっこいい仕事姿は子供たちから離れていってしまった。

大工魂2 大工魂2

見る機会は減ったものの、大工の仕事はかっこいい。自分の背丈より高い柱や体重より重い梁を簡単に操っているように見える。掛矢(カケヤ)という大きな木槌を振り回し、構造材をついでいく。職人同士で掛け声を発しながら息を合わせて大きな構造材と戦っている。常に危険との取り合わせだからこそ、日ごろからお互いのことを理解し息を合わせて作業をしなくてはならない。ベテランは、若手に背中で仕事を見せながら安全も見守る。和気あいあいとしながらも事故の無いよう緊張感を持ちながら作業を進めている。

建前2 建前2
 

技術の継承

技術の継承は、これからの建築業界にとって一番の課題となっている。技術を習得するまでには時間がかかる。現代の若者にとって、習得時間はとても長いものと感じるかもしれない。朝早くから現場での作業が始まり、夕方まで一定のリズムで仕事を進めていく。毎日のことだから、焦ってはいけない。高所での作業も多いためリズムを崩せば即、ケガにつながりかねない。早く仕事の習得をして一人前の大工になりたいと思うが、一つ一つの技術を着実に習得していかなくては良い職人にはなれないのだ。

若手の成長を見守り、ベテランの技術を伝えていく。人伝いにしか伝わらない技術があるから、継承は難しい。その難しい課題に中澤勝一建築は、向き合い続けている。

技術の継承 技術の継承
古民家1 古民家1

古民家再生の仕事

大工は知っている。ちゃんとしたものしか残らないことを。しっかりした仕事でつくられている建物でないとメンテナンスの難しさが上がることも。大切な住まいだから、将来のことも想像し作っていく。古民家再生は、中澤勝一建築の大切なミッション。地域の暮らしを守っていくためには、建物の再生技術を持つことも大切だと考えている。

新築とは違う難しさが、古民家再生にはある。難しいからとか、経済性を優先したいという発想からは古民家再生のミッションは生まれてこない。本当に地域の工務店として、地域に価値を残したいという大工集団が中澤勝一建築なのだと思う。

古民家2 古民家2

中澤社長が、「大工魂」という言葉に込める意味は深い。住まい手にとって安全で快適な美しい住まいの提供は当たり前だという。それ以上に将来を想像し、地域の住まいを守っていく職人の技術の継承、そして若い人材の育成にあるのでないか。地域に若くて技術のある人材をつくることで地域が活性化し、長野の未来をつくっている。そんな気がしてならないインタビューだった。

中澤毅社長 中澤毅社長
君島貴史 写真

interviewer
君島貴史(きみじま・たかし)/1975年東京生まれ。横浜を中心に150棟以上の建築家との住まいづくりに携わる。デザインと性能を両立した住宅を提案し続けています。「愉しくなければ家じゃない」をモットーに、住宅ディレクターとWebマガジン「andarchi」の編集を行っています。

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