今回のプロジェクトは、バレエスタジオとピラティススタジオを併設した住宅設計。敷地面積に対し、スタジオとしての駐車場の台数完備や中庭空間が欲しいという住まい手の要望、そしてプロジェクト予算を抑えることなどを考えると、建物の大きさは延床面積で35坪程度に抑える必要があった。35坪という決して通常の住まいとしても大きくない建物にスタジオ機能を加えるという難易度の高い設計となった。
様々な条件を踏まえ最適な回答を出したのが、建築家の今知亮(こん・ともあき)氏。厳しい条件が住まいの特長となり「非住宅感」なファサードとなった。
非住宅感なファサード
敷地は西側に道路が接する条件だった。西側が道路の場合、西陽を避けて窓を少なくするのが、温熱的に優れた住宅を設計する上でのセオリー。南向き日当たり良好という一般的に良い土地とされる敷地条件は、南からの日差しが取り入れやすい道路側に窓を配置するため、生活感のある窓が道路側のファサードを構成することが多くなる。
反対に、西側や北側に道路が接する場合は、採光の目的を重視した窓を置かなくてはいけないという条件がなくなるため、むしろ設計デザインの幅が広がる。これは、様々な設計テクニックを持つ設計事務所にとってはメリットな条件となる。結果、外からのプライバシーを確保したいスタジオ運営にとって窓を少なくできたことはメリットとなった。「非住宅感」は、敷地環境への適応とスタジオという機能を加えた結果としてのデザインとなった。
正面からみると3つのボックス形状が重なるデザインとなっている。向かって右側がスタジオエリア、左がリビングエリア、2つのボックスを繋ぐ真ん中のエリアが住まいの「ハブ」となる階段スペース。ハブとあえて呼んでいる理由は、階段を中心にすべてのエリアへつながって行くため。リビングエリアとスタジオエリアと2階のプライバシーエリアを繋ぐ階段スペースとなっている。この階段スペースが、それぞれのエリアへの「ハブ」となり、エリア同士の緩衝エリアともなっている。リビングスペースとスタジオスペースを緩やかに仕切る機能も果たしている。
階段エリア(ハブ)の機能
前段でも述べたように、この設計の肝となるのが階段エリア。正面から見た時の窓があるエリアが階段スペースとなる。道路側に対しては、すべて窓を閉めるのではなく、階段スペース(パブリックスペース)は、公共とのつながりを意識した。窓をすべて無くしてしまっては、街に対して閉鎖的となりスタジオ自体が閉鎖的なビジネスとなってしまう。ゆえに、設計者の今氏は、程度な解放性を階段エリアに作った。もう一つの重要な機能として、ボリューム調整のための階段設計。階段を建物の中央に配置することで各エリアへの廊下を最短にしている。階段を中心に各エリアへとつながり、効率的な「ハブ」としての機能を果たしている。
夜になれば、階段は外観のアクセントにもなる。スケルトン階段として設計された階段は、夜はライトアップされ美しい景観も作り出す。多機能な階段スペースを作りことによって様々な課題を解決すると同時に、魅力的な空間設計へと昇華した。
つながる中間領域
東南側には、アウトドアリビングを楽しめる中庭を配置。ダイニングの開放性を作ると同時に、スタジオの開放性も同時に作り出している。スタジオはプライバシーの観点や鏡を設置する壁の必要性から閉鎖的な場所になりがちだが、内側へ開くことによりプライバシーと解放性を両立した設計となった。プライバシーに配慮された中庭空間は、ダイニングエリアとスタジオエリアをつなげる動線設計にもなっている。
友人が遊びに来た時には、ダイニングエリアと中庭空間でバーベキューを楽しむことができると同時に、スタジオは子どもたちの遊び場ともなる。ダイニングエリアとスタジオエリアを繋ぐ中間領域があることで、楽しみ方の幅が広がっていく。
中庭側に大開放に設けられた窓が、建物内部に明るさをもたらしていることは言うまでもない。メリハリをつけた窓計画は、建物に機能性を持たせると同時にコストコントロールにも配慮されている。無駄な窓の設計をせず、予算を考えた設計も設計者に求められた大切なミッション。
住まい手との理解
今回のプロジェクトは、住まい手と設計者との設計に対する理解が高いレベルで求められたものだった。特に、設計前の相互の理解として深めなくてはならなかったのが、建物規模をどれだけ小さく計画しながら、住宅の機能とスタジオの機能を併設するか。
設計者の今氏は、普通に計画すれば40坪を超える計画になってしまうことは予想していた。35坪規模に縮小するためには、住まい手の理解と協力が必要と考えていた。今氏が最も共有したかったことが、暮らしにおけるプライバシーの感覚。玄関とリビングの関係性、リビングとスタジオの関係性、エリアとエリアの仕切り方の感覚などだ。暮らし方を住まい手と深く共有して行くことで答えが見えてくる。
暮らしの主となる奥様、そしてスタジオ経営をされるのも奥様。奥様の感覚として「リビングは、なるべくカフェのように開放的にしたい」という言葉を導き出せた。これが、建物規模を小さくしながら全ての機能を満たした設計にできるという起点となった。お互いの空間に対する感覚を深く共有することで、「ハブ」となる階段エリアが生み出された。効率的な階段エリアを作ることで、多機能な空間動線を生み出すことにもつながっていったことは前述のとおりである。
建築家の視点
バレエスタジオを併設した35坪の設計。決して大きくない設計ボリュームにバレエスタジオを計画し、中庭空間も配置した設計となっています。エントランススペースと階段ホールの配置を活かし、リビング空間とスタジオを緩やかに分けています。階段ホールは玄関ホールと中庭空間を大きな窓でつなぎ、建物の奥行き感を演出しています。
バレエスタジオに来られるお客様が多いため、道路側には最大4台の車が停められる駐車スペースを確保。東南の光を室内に取り込むため考慮された建物形状は、プライバシーを配慮した中庭空間を創り出しています。
グレーの塗り壁を基調としたシンプルな外観。抜け感のある窓の配置は、外観のアクセントになっています。シンボルツリーの配置など外構計画もしっかり設計し、グレーの壁面に緑のアクセントが映えるようにしました。