[設計:times and design office 施工:With HOME 所在地:愛知県知多郡阿久比町]

三角屋根のファサード

Perspective 建築家三島史子×小浦義一 Feature|Mar.2022

建築家三島史子氏写真建築家三島史子写真
三島 史子(みしま・ふみこ)/1995年 京都府立大学生活科学部住居学科を卒業し、大阪セキスイツーユーホームに勤務。1996年 原設計一級建築士事務所勤務。2000年 高松工芸高等学校インテリア科講。2005年 プランアーク建築事務所勤務した後、2015年 タイムズ・アンド・デザイン オフィスを設立した。シンプルで機能的なデザインを基本とし、施主の声に真摯に向き合い、唯一無二の楽しい暮らしを設計することを旨としている。
小浦義一氏写真小浦義一写真
小浦 義一(こうら・よしいち)/1991年 板前から大工に転身し、2001年「キッチンくらぶ」として独立する。お客様に寄り添った仕事がしたいと、木造注文住宅の大工工事を請け負うようになる。ある建築家と出会い、大工工事だけではなく、業者の手配や段取り、納まりなど監督の業務もこなし、株式会社夢工房キッチンくらぶを立ち上げ「With HOME」のブランドで建築家住宅を手掛ける。以来、住宅の温熱環境や構造躯体など安心で快適に暮らせる住まいはもちろん、自然素材を使って、より健康に心地よい生活を提供するために、日々研鑽中である。

街の景観をつくる

ここは愛知県知多郡の閑静な住宅街の一角。前面道路は、少し交通量の多い丁字路に面していた。せっかく目立つ立地なのだからと、施主でもありWith HOMEのスタッフでもある持田氏は、設計者の三島氏に住まいの正面性であるファサードを重視した設計にしてほしいと要望を伝える。

持田氏が思い浮かべたファサードはシンプルな三角屋根の家。デザインはシンプルであればあるほど難しい。三角屋根に玄関だけのシンプルなファサードはごまかしが効かない。ある意味、建築のプロがオーダーする設計は難しいものになりやすい。外観という設計的縛りがありながら間取りを成立させるのは、とても難易度の高い仕事となる。通常とは異なる難しさを抱え、三島氏はプロジェクトを受けた。

建築家三島史子氏 建築家三島史子氏

ファサード ファサード

この要望に対し、さらに三島氏はなるべく軒の高さを抑え建物の高さを低くし、左右の屋根勾配をシンメトリーにする設計を選択した。母屋を低くしたことにより、重心が低くなりデザインに安定感が出てくる。反面、母屋を下げたことにより2階部分の3分の2ほどのエリアが通常の天井高より下がってくる。天井高を下げたことで居室に対する制限もかかってくる。屋根の高さを抑えた上にシンメトリーを維持するということで、間取り設計の難易度がさらに上がった。

ただ、この選択により大屋根の勾配と長さとのバランスがとても良くなり美しいファサードとなった。屋根のケラバ(ふち)は、薄く仕上げられ屋根のデザインが重たく感じないようにデザインされた。三角の切妻屋根は日本の住宅デザインの代表的なファサードであり、街並みに溶け込むデザインでもある。

窓のないファサード

窓のないファサード 窓のないファサード

建物正面に窓をつくらない事も持田氏の要望。シンメトリーに勾配の取れた屋根に玄関ポーチの開口部だけのシンプルなデザインは、いつまでも飽きの来ないファサードとなった。シンプルなだけに縦横の比率、屋根の勾配の角度や大屋根の長さなど、ごまかしの利かないデザインとなる。このデザインは三島氏の設計者としての感性を頼るしかない。

敷地はいわゆる南向き日当たり良好の立地。道路側(南側)には大きな窓が設けられ、日差しをたっぷり取り込む計画をされることが一般的だ。今回のプロジェクトは、その定石にはとらわれず南側に窓を設けないという思い切った設計。窓を設けないことによって生活感を表に出さない設計となった。

光を採り入れる技術

採光 採光

南側に窓を設けないという定石とはかけ離れた設計を選択すると、採光という問題が生じる。電気をつけなくても昼間は明るい空間を担保したい。三島氏は吹き抜けと階段の位置、そして西側の軒の出を巧みに利用している。

吹き抜けに接する階段を上ると東側の窓が正面に現れる。午前中の光は、この大きな窓から差し込みリビングを明るくしている。午後は西に傾きつつある日の光を引き込むが、夏場の西日は温熱環境を悪くするため、軒の出を深くし遮光する。冬場の西日は、低い高度から差し込む為、リビングの奥まで差し込み暖かな空間としてくれる。

西側の窓 西側の窓

あえて母屋を下げる

勾配天井1 勾配天井1 吹き抜け 吹き抜け

屋根の一番低いところにあたるところが「母屋(もや)」。その母屋をあえて下げることの選択をした三島氏。理由は外観のファサードを整えることにあった。正面から見た時に安定感のあるファサードとするための縦に長いファサードとなることを避けた結果だ。母屋を下げたことによって内部空間にも特徴が表れる。リビングから上部を見上げると1階のリビングにも関わらず勾配天井になっている。感覚的には平屋にロフトをつけた設計に見えるが、実際は2階建て構造。1階のリビングから吹き抜け空間を通じて2階の勾配天井が見える室内空間となった。

1階から2階の勾配天井が見えるという不思議な感覚を味わうことができる。これによりLDKの開放感は想像以上のものとなる。階段空間もリビング内に取り込む設計となっている。人が感じる広さは、空間の対角線の距離の長さに比例するとも言われている。母屋を下げることによって、むしろ吹き抜けと2階の勾配天井を連続させる設計となり対角線が伸びていくこととなった。

勾配天井2 勾配天井2

切妻屋根を利用した勾配天井

この住まいの最大の特徴とも言うべき勾配天井。勾配天井の仕上げをレッドシダーの板張りとした。自然素材を多用した空間は、住まい全体の柔らかなイメージをつくりだしている。1階のリビングから見上げる勾配天井、2階の渡り廊下から見る勾配天井。それぞれ見え方が異なり楽しい空間となっている。

吹き抜けを通じて1階と2階がつながっているというより、勾配天井でつながりを成立させている印象が強い空間だ。勾配天井なりに上がっていく階段のもインテリアの楽しさを提供してくれている。母屋を下げるという効果が外観だけでなく、内観にまで影響し重要なコンセプトをつくりだしている。

勾配天井3 勾配天井3

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君島貴史(きみじま・たかし)/1975年東京生まれ。2008年、トレードショーオーガナイザーズ株式会社にて注文住宅の専門展示会「スタイルハウジングEXPO(東京ビッグサイト)」を立ち上げ、住宅購入を検討する施主20000人が来場する住宅イベントを開催。2014年より株式会社バウハウスデザインの常務取締役に就任し、「楽しくなければ家じゃない」をモットーに家づくりに携わっている。株式会社AND ARCHIを設立し、ウェブマガジン「AND ARCHI」の編集に携わっている。

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