[ 設計:藤本誠生建築設計事務所 
施工:バウハウスデザイン 
所在地:東京都町田市 ]

多機能な中間領域を設計する

Insight 建築家 藤本誠生 Feature|Mar.2023

君島貴史 写真君島貴史 写真
君島 貴史(きみじま・たかし)/株式会社バウハウスデザイン 1975年東京生まれ。2008年、トレードショーオーガナイザーズ株式会社にて注文住宅の専門展示会「スタイルハウジングEXPO(東京ビッグサイト)」を立ち上げ、住宅購入を検討する施主20000人が来場する住宅イベントを開催。2014年より株式会社バウハウスデザインの常務取締役に就任し、「楽しくなければ家じゃない」をモットーに家づくりに携わっている。株式会社AND ARCHIを設立し、ウェブマガジン「AND ARCHI」の編集に携わっている。
建築家藤本誠生 写真建築家藤本誠生 写真
藤本 誠生(ふじもと・せいしょう)/2002年 森繁建築研究所。2012年 矢橋徹建築設計事務所。2015年 藤本誠生建築設計事務所一級建築士事務所 設立。「使われ続ける建築をつくること。可能性のある建築を考え続けること。1つの建築が連鎖し、街・都市・思考が共鳴していくことを指標にしています。重視していることは敷地へのアプローチ・ゾーニング・動線・高さの価値付・プロポーション・クライアントの思いを紐解いていき、無意識な感覚をみつけ価値付けし建築空間へとつなげてく作業を繰り返します。完成した時に違和感なくやっと会えた感覚をもっとも重要視しています。」

閑静な住宅街の角地というロケーション。少し変形した角地で、土地の大部分が概ね東側に道路と接道する敷地条件だった。南西側は隣地が一段高くなっており、午後からの光は入りづらい敷地条件となっていた。

しかしながら、東側が大きく開いた敷地条件は開放的でパフォーマンスの高い土地と言えるだろう。この土地のポテンシャルと向き合ったのが、建築家・藤本氏だった。

今回のプロジェクトの「中間領域」は、リビングとつながる中庭のウッドデッキ。外観のアクセントとしての中庭空間であり、日常的に使えるアウトリビングにもなった。そして一年中柔らかな自然光を室内にもたらす光庭にもなっており、多機能な領域となった。

外観デザイン

全体的に黒を基調とした外観。東側の大きく開いた開口部にレッドシダー張りの外壁がアクセント。インパクトのある外観ファサードとなった。ガレージ部分は、玄関ポーチと兼ねた屋根を掛け、外観の構成要素でありながら、実用性も兼ね備えた設計となった。来客を想定し、最大3台の車が駐車できるよう建物の配置を考えられている。角地は街並みの景観に大きな影響を与える敷地であることから、建物のデザインのみならず外構デザインにも気を使った計画となっている。

接道が長いことから道路側から見える面には、将来大きく成長することも想定し適度な間隔で植栽を植えている。全体的に黒のファサードとなっているため、柔らかなイメージを加える効果もある。エントランス横には一年中緑の常緑樹であるシマトネリコを配置した。ガレージの奥には、キッチンの窓から見える位置にモミジを植え、室内から季節感を感じられるようにした。

外観のアクセントとなっているレッドシダーの壁に囲まれた中庭空間にもにはドウダンツツジを植えた。ドウダンツツジは秋になると燃えるような赤に染まり、紅葉の季節を楽しませてくれる。藤本氏は、将来の植栽の成長も想像しながら住宅設計を心がけている。

高低差を利用した設計

道路と敷地には高低差があった。北側の高低差が一番大きく約2m。南に向かってだんだん敷地の高さが道路と揃ってくる。敷地の高低差は、建物の設計に大きな影響を与える。藤本氏は敷地の高低差を活かした設計を目指した。

北東側の角に位置する場所には、アウトリビングとなるデッキ空間を配置した。デッキ空間は、日常的に気軽に利用できるよう設計された。日常的に利用されるためにはプライバシーの配慮は欠かせない。外にいながらも外部からの目線はカットされている設計が重要となる。外部からの目線をカットするために道路との高低差が利用されることになった。

建物は基礎の高さなどを考慮すると地面より60㎝ほど高くなる。道路との2mの高低差にプラスアルファすると2m60㎝ほどの高低差となる。ここまでの高低差になれば、道路側からの目線を感じることは無くなるため、カーテン無しでも生活が可能となる。カーテンが無くなることで、デッキ空間が常にリビング空間として感じるようになり日常的な空間となる。

日常的な中間領域の設計

「中間領域」という考え方が設計者の中にある。外でもなく中でもない中間的なエリア。リビングからフラットにつながるデッキ空間は、外でありながら室内空間と同じような感覚で使用できるように設計。靴に履き替えることなく外部空間に気軽に出られるようにした。靴に履き替えることなく出入りできるということが大切な要素。

日常的に陽気の良い日はお茶を楽しんだり、日向ぼっこをしながら本を読んだり、子どもが遊んだりと日頃からリビングと同じような使い方ができるスペースに設計しておかないとメンテナンスが面倒くさいだけの無用の長物になってしまう。アウトリビングとして外に出て生活するライフスタイルが日常的になるかどうかを住まい手としっかり確認することも設計者として大切な仕事となる。

「中間領域」は、室内空間の開放性を高め生活領域を広げる効果がある。外に出ていないときでも、リビングとデッキのつながりが広がり感を与える。デッキの隅に植栽などを配置することで室内に豊かな景観をもたらし、夜には植栽をライトアップすることで昼間とは異なる生活シーンが演出される。

柔らかな光

デッキ空間は、吹き抜け構造になっている。あえて屋根の無い構造とし春夏秋冬の光が心地よく入ってくるよう設計された。デッキ空間に面する窓はプライバシーにも配慮されており、大胆に大きく開くことができた。外側に面した窓でありながら、中間領域という内側に面している窓でもある。

リビングや書斎、2階のフリースペースなど室内のあらゆるスペースがデッキスペースに向かって開いている構造だ。角地でありながら内向きに開くという藤本氏の独特な感性が表現された住まいと言えよう。

駐車場の裏側

ビルトイン形状の駐車場の奥に空地を設けた。空地は南側の隣家との距離を空け、光を取り込む機能が備わっている。敷地内に余白があると隣地との距離感も取れて心地よい住空間が担保される。

空地には「モミジ」を植えた。モミジの木は、四季を楽しめる木。春には新緑、秋には紅葉。モミジの葉の形も見るものを楽しませる。夏には多くの葉を茂らせ直射日光の侵入を和らいでくれ、冬には落葉し陽の光を室内に注ぎ込んでくれる。まるで自然のカーテンのようだ。

モミジの木は、住まい手(奥様)の一番のお気に入り。まだ、今は木の背丈が低いため、キッチンの窓からモミジの葉は見えないが、年々大きく成長することで窓からモミジの景観が見られるようになるのを楽しみに待つのも良い時間だと。 植栽は住まいに変化をもたらし、住まいの「お気に入り」がずっと続く要素となる。