バウハウスデザイン事例 バウハウスデザイン事例

[ 設計:KAWAZOE ARCHITECT 施工:バウハウスデザイン 所在地:神奈川県横浜市 ]

ロケーションを活かす

Insight 建築家 河添 甚 Feature|Oct.2022

建築家河添甚 写真建築家河添甚 写真
河添 甚(かわぞえ・じん)/一級建築士事務所 河添建築事務所 1977年香川県生まれ。2002年大阪工業大学工学部建築学科 卒業。2003年プランテック総合計画事務所 入所。2010年|一級建築士事務所 河添建築事務所 設立。香川と東京に活動拠点を構える。土地のポテンシャルを読み解き暮らしの最適解を導き出すことを心掛けている。
君島貴史 写真君島貴史 写真
君島 貴史(きみじま・たかし)/株式会社バウハウスデザイン 1975年東京生まれ。2008年、トレードショーオーガナイザーズ株式会社にて注文住宅の専門展示会「スタイルハウジングEXPO(東京ビッグサイト)」を立ち上げ、住宅購入を検討する施主20000人が来場する住宅イベントを開催。2014年より株式会社バウハウスデザインの常務取締役に就任し、「楽しくなければ家じゃない」をモットーに家づくりに携わっている。株式会社AND ARCHIを設立し、ウェブマガジン「AND ARCHI」の編集に携わっている。

公道から私道に入り、約6メートル幅の道を突き当りまで行くと敷地にたどり着く。道の一番奥の敷地が今回の計画地だった。一番奥なので周囲は囲まれた環境だと思っていたが、実際に足を運んでみると公園が西側に接する開けた土地だった。公園の桜の木が隣接する景観の良い敷地。このポテンシャルをどのように活かすかが設計のポイントとなった。

外観デザイン

グレーの塗り壁を基調としたシンプルなデザイン。公園側から建物を見ると2つの建物が立っているように見える。実際は、反対側で2つの建物はつながるコの字の形状となっている。コの字に形状によって、2つのボリュームが公園側に見えてくるファサードとなった。

コの2つのボリュームは、塗り壁の面がシンプルに見えるよう窓を配置された。これにより、公園の桜の木とのバランスも良く、周辺の景観に溶け込むデザインとなった。さらに、後に述べることとなるが、窓を多く配置しないことで西日のコントロールも兼ねた機能的なデザインともなっている。

玄関周りは黒のガルバリウム鋼板仕上げに木製ドアをアクセントとする構成。シンプルで飽きのこないデザイン構成は簡単なようで難しい。河添氏は、土地のポテンシャルと施主の要望を踏まえシンプルなデザインに組み上げていく。今回の設計は、玄関側のファサードと公園側のファサードの2つの正面性を作り上げていくことになった。

西側に接する公園

敷地は公道から私道に入り50mほど中に入った場所にある。通り抜けができない道の突き当りの敷地。奥まった先の敷地だが、敷地の奥は公園と接するという特徴のある土地である。奥まっている場所であるにも関わらず、奥が公園の環境で開けているユニークな土地だった。

この土地の購入の決め手となったのも隣接する公園の環境。週末には外の空間でアウトリビングライフを楽しみたいというのが施主の要望。そこで、河添氏は公園の環境を活かしながらアウトリビング空間を設計するのが良いと考えていた。

しかし、公園側は西側という敷地条件。西側にアウトリビングとなるデッキを配置し、公園に対してリビングの大きな窓を設置すれば、リビング内に西日を取り込む設計となる。西日を取り込む設計にすれば当然、夏の室内の温熱環境が悪くなってしまう。単純に西側に面するリビングをつくるという設計にはできない状況だった。南側には隣家が迫っており、景観としてはあまり良い環境ではなく南側にデッキを設置するという選択肢も考えにくい。要するに南の日差しの取り入れ方と西日に配慮しながらの西側の景観の取り入れ方が設計のポイントとなった。

コの字の選択

河添氏の回答は、コの字だった。建物をコの字にすることで南側の隣家に対する景観の配慮と中庭を通じての南の光の取り入れを実現した。リビングの大きな窓は南側に開くこととなり、西日への配慮も同時に解決している。要望の中でも一番大切な条件であったアウトリビングも公園の桜と隣り合わせになるよう配置された。

河添氏の初期の考えでは、敷地の大きさ的にコの字の建物は実現が難しいと考えていた。コの字の建物はボリュームが大きくなりがちなため、光をしっかり取り込むほどの中庭空間を確保した建物は敷地に収まらないと考えていた。

リビングの光

南側を開かないという回答は、一般の住宅設計のセオリーからは外れているかもしれない。コの字の開いている方向は西側であるため、日中の日の光をリビングに取り込めるかどうかが設計のポイントとなった。

北側にゾーニングされたリビングの明るさは中庭の空間から取り込まれてくる。特に冬の日照高度を計算しながらリビングと中庭の配置の関係性を計算していく。その結果、リビング全体を吹き抜け空間とし、吹き抜け上部に大きな窓を設置することで北側リビングを明るくすることとなった。

公園の桜の木を切り取る

公園には大きな桜の木が立っている。この敷地の特徴でありアクセントであると感じた。公園に向き合うということは、この桜の木に向き合うこととなる。春の桜の時期が毎年楽しみな時期となるよう設計に取り込んでいこうと河添氏は考えていた。住まい手の要望も、この公園の環境をどのように活かせるかどうかだった。

アウトドアが好きな家族にとって、アウトリビングの環境が公園と融和していくことが最適解。さらには、玄関を入った瞬間、ピクチャーウィンドウ越しに桜の木が見えるイメージもヒアリングの段階で共有出来ていた。公園の桜の木の切り取り方がアクセントとなり、友人を招いた時のサプライズ感ともなっている。

家族のつながり

リビングの吹き抜けは家族のつながりをつくりだす。開放感のあるLDKにはいつも家族全員が揃い団欒を楽しんでいるが、将来的には子供の成長と共に家族の距離感も変化してくる。そんな時、大きく開放性のあるリビングは、家族間の適度な距離感を担保してくれる。

階段を上がったホールには子供たちが使用するスタディコーナーを設置した。吹き抜けに向かいながら椅子に座り、勉強をしたり遊んだりと常にLDKと一体となる暮らしが実現している。

吹き抜けは、リビングに明るい光を届けたり、家族のつながりをつくったり、家全体の温度環境を均一にしたりと多機能だ。このような大空間をつくるには、住宅性能が必須となる。家全体の温度環境を維持するためにも、住宅性能を熟知し設計に利用することも建築家の重要な仕事となっている。