土地の記憶に寄り添う建築家 河添 甚

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土地の記憶に寄り添う建築家 河添 甚

BAUHAUS DESIGNの家を設計するアトリエ建築家は、
お客様とお会いする前に必ず建設予定地を訪れ、自分の目で現地を確認する。
現地を体感した上でヒアリングに入り、実際の設計に活かすことが何より大切だからである。

今回の『建築家の視点』で紹介するアトリエ建築家は、河添 甚 氏。
これまで数々のBAUHAUS DESIGNの家の設計を手掛けてきた建築家である。

彼は「土地との対話」を大切にする。
彼は、その土地の持つ背景や、弱点、課題、隣地との関係性など様々な要素を実に細かく分析し、設計に取りかかる。
『土地の記憶に寄り添う建築家』という表現がぴったりかもしれない。

内外の回遊、連続、拡張

河添氏が住宅の設計において特に重要視していること、それは、
内外の回遊、連続、拡張

彼はいつも、この「内外の回遊、連続、拡張」を念頭に置いてロケーションと対面する。
河添氏は概ね以下のようなニュアンスで「内外の回遊、連続、拡張」という表現を用いている。

ちょっと専門的で難しい表現ではあるが、今回は、彼がバウハウスデザインの家を設計する上で「回遊、連続、拡張」をどのように取り入れていったかについて、彼の足取りを追いながら掘り下げてみていこうと思う。紹介する実例は「MK HOUSE(鎌倉二階堂)」。建築家河添氏がどのように土地と向き合い、その特徴をどう分析し、設計に落とし込んでいったのか紐解いていく。

【敷地データ】

土地との出会い

まずは土地との出会い。建築地は神川県鎌倉市。この地域は、第一種低層住居専用地域であり歴史的風土保存地粋でもあり、計画計画区域でもあり風致地区でもあり、周辺建物や町全体との景観の調和を大切にし、建物の形や色味にまでも鎌倉市のチェックが入る地域である。いざロケーションとの対面。南北に開けた土地である。まず目に入ってくるのは、北側に位置する裏山に生い茂った木々の緑。隣家にも緑が多い。

【 実際の敷地 】

写真ではわかりにくいが、敷地を南北に斜めにスライスするかのように約90㎝程の高低差がある。建築家にとっては難題の多い一筋縄ではいかない(いや設計しがいのあるといった方が良いだろう)ユニークな土地である。

弱点を逆手にとった設計へ

南北に走る段差をなくし、平らにしてから家を建てようと考える建築家ももちろんいるだろう。しかし「段差」という弱点を逆手にとったのが河添氏の設計である。「段差」は弱点ではあるかもしれないが、河添氏はあえてその「段差」を残したまま家を建てることを考えた。この段差は「土地の記憶」なのだ。彼はそれを大切にしたいと思った。

【 実際の河添氏のPLAN 】
図面では分かりづらいかもしれないが、北側玄関を入り左手へ進むと薪ストーブのある大判タイル貼りの土間がそのままのレベルで広々としたリビングへと続いている。ここは土地の段差でいうと低い部分にあたる。一方、玄関を入り正面の引き戸を開けると、そこはSICからパントリー、そしてキッチンへとつながる動線を描く。玄関からSICは同じ床レベルであるが、パントリーに切り替わる部分で床レベルを1段上げている。リビング側からの動線でもダイニングスペースの手前で1段高くなるように設計。面白いのは1Fのこの動線計画は、内部での回遊動線とともに実はそのまま外部への回遊動線へもつながっているところ。

内外」にぐるぐる回れる内部動線と外部動線を「連続」させ、そこにスキップフロアのように段差を上手く取り込んだ設計はとても斬新である。段差の話に戻るとキッチン~勝手口を出るとメインデッキへと上る3段程の階段がある。広々メインデッキが実はこの土地の約90㎝の高低差で一番高い部分。犬走デッキのレベルは、リビングサイドはリビングの床レベル、ダイニングサイドはダイニングの床レベルに合わせ、ここもスキップフロアのような楽しい空間になっている。

借景を考える「外の緑を内部に拡張する」

最初に記述したように、この土地は北側に大きな裏山の緑があり、風致地区ということで隣家の庭先にも緑が多いという特徴がある。河添氏の考える「借景」は外部空間の緑を借景として内部空間に「拡張」させるという設計である。

【 実際の河添氏のPLAN 】

北側の裏山の緑をどうやって借景として室内へ「拡張」したか、その発想がまた面白い。1F土間リビングには大きな吹抜空間があり、スケルトン階段を上ると正面に大きな正方形のピクチャーウィンドウがある。この窓は建物のファサードデザインにおいても重要なポイントとなる。

河添氏が考えたのは、1F土間リビングのソファーに座った時に吹抜空間を見上げ、視線の先の2Fの大きなピクチャーウィンドウ越しに見える裏山の緑の借景を室内へ「拡張」するというアイデア。そしてスケルトン階段はの先の裏山へとのぼっていくかのような錯覚を楽しめる。建築家ならではの遊び心ある設計である。

隣家の緑を借景として内に取り込んだ拡張性のある外構計画とあえてのシンプルなファサードデザイン。
河高低差を活かした緑化計画とテラスへと続く「裏動線」。
内外の高低差に合わせて南北につながる屋外デッキテラス。
周辺環境(隣家の緑と裏山の緑)を庭と考えて取り込んだ広々としたメインデッキテラス。
各階の連続性と空間を拡張する吹抜の大空間。
内外で床レベルを揃えることで外部環境を内部に拡張。高低差を「土地の記憶」として室内にも取り入れたことで生まれた土間空間。
外部デッキへとつながる掃き出し窓とテラスドア。高低差を活かし、南側へ行くにつれて土間リビングからダイニングそしてメインデッキへとスキップフロアのように段差を設けている。
内外に連続拡張するダイニング、デッキテラス、そして緑。
機能的な回遊、連続、拡張のある動線計画。
土間リビングのソファーから吹き抜けを見上げるとその先に裏山の緑を借景とした大きなピクチャーウィンドウ。
鉄骨階段は裏山へと登る錯覚を愉しむかのような建築家の遊び心。

「土地の記憶に寄り添う建築家」河添氏が手掛けた「MK HOUSE」。土地のメリットデメリットと向き合い、周辺環境と向き合い、彼の重んじる「回遊、連続、拡張」を見事なまでに取り入れ実現した機能とデザインを両立した設計。デメリットである土地の高低差は「土地の記憶」。その記憶はスキップフロアとして住まいに取り込まれ、至福の土間リビングが生まれた。

「土地の記憶」はこれからこの家の「住まい手の歴史」へとつながってゆく。借景を上手く取り入れた大きなピクチャーウィンドウは、土地との対話を大切にする河添氏ならでは。鉄骨階段に込められたちょっとした遊び心も含め、結果、想像を超える心地よい家が誕生した。

この「MK HOUSE」は2018年R+houseデザインコンテストにおいて優秀作品賞を受賞している。

河添 甚 JIN KAWAZOE 一級建築士事務所 河添建築事務所

Message 「要望や条件をまとめる際のお客さまとの会話を大切にし、会話の中に見え隠れする希望や想いをできるだけ抽出できるよう心がけています。また、住宅デザインについては機能と連動させたシンプルなデザインとすることで使い勝手がよく、デザイン性の高い住宅設計を行います。最良の住まいづくりのお手伝いをできればと考えています。」

Text by Kozue INAMURA(May. 2019)

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