Crossover Talk #5 君島貴史×戸田悟史 Crossover Talk #5 君島貴史×戸田悟史

快適な暮らしを生み出すキーワード「距離感」

「家づくりは最高に面白い!」。
そんな想いを伝えたいとスタートした家づくりの奥深さ、
楽しさを知る者たちによるクロスオーバートーク。
最終回のトークテーマは、「新しい暮らしの快適性。
それを生み出すポイント」
心地よい暮らしに隠されたヒミツとは何か? 家づくりの本質に迫ってみた。

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「家づくりは最高に面白い!」。そんな想いを伝えたいとスタートした家づくりの奥深さ、
楽しさを知る者たちによるクロスオーバートーク。
最終回のトークテーマは、「新しい暮らしの快適性。それを生み出すポイント」
心地よい暮らしに隠されたヒミツとは何か?  家づくりの本質に迫ってみた。

快適な暮らしを生み出すキーワード「距離感」

Crossover Talk #11 君島貴史×戸田悟史 Feature | Sept.2020

戸田悟史 写真
戸田悟史(とだ・さとし)/1974年東京都生まれ。1997年に芝浦工業大学建築学科 卒業、1999年芝浦工業大学大学院建設工学専攻修士課程終了。その後、大田純穂建築設計研究所にて数多くの個人邸、商業建築を手がけ、2009年にトダセイサクショ一級建築士事務所を開設。2016年株式会社トダセイサクショ一級建築士事務所を設立。要望とデザインをまとめ上げ、建物のバランスを取る設計を心がけている。
君島貴史 写真
君島貴史(きみじま・たかし)/1975年東京生まれ。2008年、トレードショーオーガナイザーズ株式会社にて注文住宅の専門展示会「スタイルハウジングEXPO(東京ビッグサイト)」を立ち上げ、住宅購入を検討する施主20000人が来場する住宅イベントを開催。その後、建築会社のコンサルタントを行う株式会社グローバルデザインを設立。住宅会社にて「楽しくなければ家じゃない」をモットーに家づくりに携わりながら、2020年、株式会社AND ARCHIを設立、ウェブマガジン「AND ARCHI」の編集に携わっている。

人によって違う快適性を推し量るために

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結城今回は、“快適な暮らし”はどうすれば生まれるのかという、かなり本質的、根源的なテーマで進めていきたいと思います。難しい問題だとは思いますが。

戸田誰しも、これから始まる新しい暮らしは、これまで以上に快適で、楽しい家にしたいものですからね。

君島『快適な家』と聞いて、多くの人が思い浮かべるイメージは、おそらく開放的で伸びやかな空間とか、明るくて風通しのいい空間、または清らかな空気で適度な温度に保たれた空間とかでしょうかね。

結城でも、その快適さは人によって違うものじゃないですか。私自身もその部分にすごく興味があって。建築のプロの方々はどのようにして快適さを推し量ったり、具現化しているのかなって。

君島注文住宅を建てる場合、おそらく一人で住むわけではないと思います。夫婦やお子様、さらにご両親とお住まいになる場合もあります。そんな中で、私たちが重視するのはソーシャルディスタンスですね。この言葉は今、話題になっていますけれども、本来の意味でいうと“パーソナルな距離感”ということになります。つまり、家族は個人の集まりですから、その個人個人を尊重しつつ、いかに程よい距離を保つのか、またはシーンによって変化させることができるのかが、快適さのキーポイントになると考えています。

結城なるほど。つまりその距離感は人によって、家族によって違ってくるわけだから、おのずと家族ごとに違った家になってくるということですか?

君島たとえばですよ、夫婦であれば基本的に距離は近いですよね。でも、喧嘩をしていると離れるわけです。その離れた時に程よい距離が保たれる空間であるかどうかも重要な要素です。子どもに対してもそうです。小さな頃は近いですが、小学生、中学生になってくると勉強の場所が変わってきます。

結城単に家族が良好な関係性の時だけでなく、シーンごとに距離感を想像するんですね。

君島そうです。先ほどのお子様の距離の話に戻すと、最近はリビング・ダイニングにスタディコーナーを設けるプランをよく見かけますが、中学生くらいになれば、あまり近すぎると干渉されるのを嫌い、個室に逃げ込んでしまいます。すると「こんなはずじゃなかった」と後悔するんですよ。この瞬間、家族としての快適さは失われてしまうんですね。みんなで一緒に居たいと思っていたリビング空間が成立しなくなる。

戸田だから今だけじゃなく、将来も見据えながら家族との距離を考えないと。

君島それにプラスして、家族だけじゃなくて、友達が来た時の距離、たまにやってくるご両親との距離なども大事になりますね。シーンごとにどうなるのかを想像して、この空間の中でしっかりと担保できるかどうかを考え抜く。それがプランニング・設計の肝だと考えています。

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「音」が、家族の程よい距離感を生み出す

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結城なるほど、快適さは人と人との距離がキーポイントなんですね。

戸田補足すると、いま結城さんが言ったことにも関係しますが、距離と聞くとどうしても実質的な長さをイメージしてしまいますよね? でも「距離感」というのはそれだけで形成されるものではないんです。私が大事にしているのは「音」。音によって、たとえ距離をとっていたとしても近づくことができるんですよ。

結城音や声が聞こえると安心感が生まれる。そんな気がしてきます。

戸田この青葉モデルハウスでいえば、吹き抜けやスケルトンの階段など、どこもいわゆる“ドン突き”がないように設計しています。だから程よく音が通るんです。例えば子ども部屋でお子様が勉強していても、キッチンから「ごはんできたよ」と声をかければ聞こえる。離れていてもつながっているという、心地のいい距離感が担保されるわけです。そこに居るな、寝ているな、起きているな、ということが階段や吹き抜けからの音を通じて感じられる。これはとても重要なことなんですよ。

空間が多機能であるほど、
暮らしの快適さ、楽しさは広がる

結城確かにシーンによって距離が使い分けられる空間構成とか、音が伝わる工夫は大切だと感じました。そうなると、空間には柔軟性が求められることになりますよね? するとあまり個室化しないで、極論に言えばワンフロアの真四角のような家になってくるような…それって少し面白みがないような…。

君島そうですかね? 面白みがないですか? 私の発想はまったく逆ですね。体育館がありますが、あの総二階建てで柱が一本もない空間ほど多機能なものはないと思うんですよね。その時、その時でいくらでも可変させることができる空間は、まったく飽きが来ませんから。

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結城デザイン面からみてどうですか?

君島屋根が入り組んでいたりだとか、建物に凹凸が多いものは、確かに時代の流行を捉えていて、その時は格好いいデザインかも知れません。でも間違いなく言えるの長持ちしないということです。やはりデザインは『シンプルイズベスト』です。あまり作り込み過ぎないというのが、私たちの基本です。過ぎたるは及ばざるが如しです。

結城建築家の立場で、戸田さんはシンプルデザインをどのように考えておられますか?

戸田シンプル、つまりそぎ落とすということは、実はデザインをする中でとても難しいことなんです。足していくというデザインは簡単なんですが、そぎ落としながら、そこにどれだけ要素を詰め込んでいくかというのは、かなり考えて気を使わなくちゃならない。そこが建築家としての腕の見せ所なんですけれどもね。

結城足し算のデザインの方が伝えやすい、面白いものが作れる、ということですか。

戸田その方が施主様は驚いてくれるんですけど、シンプルなものはなかなか伝わらない(苦笑)。真四角だけれども、つまんないわけじゃないんですよ、これだけ工夫しているんですよということを、模型を作りながら説明します。図面だけではなかなか伝わりませんからね。シンプルな家は絶対に飽きが来ないし、住むほどに良さが分かってくるんです。

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結城シンプルな方が、暮らしの変化を許容してくれるってことですね? ライフスタイルが変化してもシンプルデザインだとしっかりと受け止めてくれると。

君島そうなんです。デザインに凝った家って、その時は最適解かも知れないけど、ライフスタイルが変わったとき、あれ?この部屋って必要ない、使えないなってことになりがちなんです。

一日の時間の流れ、季節の移ろい。
変化を許容する住まい

結城では少し具体的に伺えればと思うのですが、この青葉モデルハウス、快適性という点で、特にどのあたりを工夫されているでしょうか?お二人のお気に入りポイントとか?

戸田私は、玄関を開けた時の上と横への広がりです。以前にもお話しましたけど、玄関ドアを開けた瞬間に得られる開放感。ここにこだわりましたし、狙い通りうまく仕上がったと感じています。

結城玄関に立つと左手はリビング・ダイニングが続いていて、右手には外空間が感じられる大きな窓。そして吹き抜けになっていますね。

戸田吹き抜けは5mもあるので、視線が縦方向に自然と流れます。だからすごく気持ちがいいんです。外という開けた場所から家に入ると空間が限られてしまい、ともすれば圧迫感に包まれますけれど、この家はそうはならない。大きな窓から自然光が入ってきますし、空も見えますから気持ちがいいんです。これも「距離感」を設計した一つと言えますね。

君島私はモデルハウスらしくないところが気に入っています。さっき戸田さんもおっしゃっていましたけれど、奇をてらっていない、すごくシンプルな設計は、住んでいるうちにだんだんと良さが分かってくる。光の入り方や季節の感じ方などは、ここに身を置かないと分からないんですが、この家はそれらに対して一つひとつきちんと配慮されています。

結城季節ごとに感じ方が変わると…。

君島決まった形ではなく、変化していくものに対して許容していくと言えばいいんでしょうか、時間の流れをやさしく受け止めてくれる、すごく懐の深い家だと感じています。 先ほどシンプルゆえに多機能という話をしましたけれど、この家にはいろんな方が来られますが、その人々に合った楽しみ方ができるんです。本当に多機能なんですよ。

写真6 写真6

ランニングコストを抑えることで、
より快適な暮らし、住まいが生まれる

結城最後にもう一つ快適さを生み出す大切なことをお聞きしたいと思います。それは空調です。

君島全館空調のことですね?

結城ええ、全館空調の快適さはよく分かります。ちょっと気になってしまうのはランニングコストです。電気代があまり高くては家計上の快適さが心配になります。

君島確かに、ランニングコストが高くつけば、快適な気持ちは失いますね(笑)。部屋は心地がいいけれど、電気代は全然心地よくないというのであれば、家としてはいい出来とは言えません。青葉モデルハウスでいうと、夏の電気代は 8,000円~9,000円くらい。ここはキッチンのコンロがIHなので、IHの使用分なども含まれての金額です。年間平均だと6,000円~7,000円ほどですね。

結城安いですね!びっくりです。

戸田実は、この家は建具の数をできる限り少なく設計しているんです。その理由、分かりますか?

結城うーん、何でしょう?…

戸田少なくすることで家の中の空気がきちんと回るから。だから効率よく冷暖房することができるんです。建具が多いと、その分だけ空気の流れを遮る障害物が生まれてしまうことになります。そういう空調計画も頭に入れてプランニングしないと、光熱費を抑えることはできないんです。

君島ちなみに2階のクローゼットに、そのまま洗濯した衣類を干すんですけど、しっかり乾きますよ。換気もよくて空気の流れを計算していますから、そういった暮らしが成り立つんです。

結城これだけ電気代が抑えられると、一般的な住まいと比べると光熱費に大きな差が生まれますね。仮に月に1万円の差があるとすると年間12万円、40年間住むと480万円の差。そう考えれば、もう少し建物にお金がかけられそうですね。

君島ランニングコストはなかなか読めない部分があるので躊躇してしまいますけど、当社の高気密・高断熱性能や空調・換気計画であれば、光熱費をかなり抑えることができると思います。これから住まいづくりを考える方は、ぜひ『イニシャルコストをランニングコストで吸収する』という意識も持ってほしいですね。

結城今回は快適性という難題に取り組みましたが、意外と明確な答えがスムーズに出てきました。最後はトータルコストを考えることでさらに快適性を高めるという気づきまで頂けて、これから家づくりを検討される方々には大いに参考になることと思います。 長時間のクロスオーバートーク、有難うございました。

Text by
結城シンジ(ゆうき・しんじ)/1965年大阪生まれ。大手情報系出版社を経て独立。以来、住宅系メディアを中心に執筆活動に従事する。現場主義をモットーに積極的に取材を重ね、建築家、建築会社、施主の生の声、本音を引き出し、価値ある情報提供に努めている。取材、ライティングのほか、住宅系情報メディアの企画・運営も手掛ける。

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